2016年卒の学生を対象とした採用広報が、大手企業で解禁されて1か月半。会社説明会には、黒っぽいリクルートスーツを着た学生があふれている。「新卒一括採用」の日本ならではの光景だ。
4月16日付の朝日新聞は、「新卒一括採用の死角」と掲げた記事を掲載。以前からこの慣行に否定的な見解を述べてきた脳科学者の茂木健一郎氏と、現行の雇用慣行にも一定の合理性があるとする人材コンサルタントの常見陽平氏が、それぞれの考えを述べている。
茂木氏「現状の仕組みは、若者の人権を侵害している」
茂木氏は、教えている大学で就活シーズンになると、学生が欠席するのが当たり前になっていると明かす。企業も学生も「授業より就職を優先」するからだ。茂木氏は、
「大多数の学生が新卒一括採用の仕組みを前提に人生を組み立てていて、欧米に比べて極端に抑圧されていると感じます」
と述べ、内定が取れないために精神的にひどく落ち込んでしまう学生に同情を寄せる。そして日本も「欧米のように通年採用にシフトすべき」と主張する。
「そもそも雇用される機会は、年齢や学歴などの外形的な面から縛られず、自由に与えられるべき(…)現状の仕組みは、若者の人権を侵害しているといっても過言ではありません」
また、現状では「発想力が豊かな学生」ほど、黒いリクルートスーツで一色になる就職活動を嫌って「新卒一括採用の枠内に入りづらい傾向にある」と指摘し、
「画一的な人事採用システムを取っていることによって、日本社会は重大な機会損失をしていると思う」
と弊害に言及。豊かな発想を社会にもたらすためには「多様な生き方をお互いに認め合うことが必要」と語り、「多様性を排除する新卒一括採用の仕組みを捨てるべき」と持論を述べた。
常見氏「新卒一括採用は、若者の未来にかける採用」
一方の常見氏は、新卒一括採用のメリットを示す。企業は「一定期間に必要な人材を選べて多数採用」でき、学生側も「卒業後すぐに安定収入を得られる」とする。さらに新卒一括採用の本質を、次のように読み解く。
「入社後の徹底した人材育成を前提にした、若者の未来にかける採用」
そもそも人材に対する見方は、茂木氏と常見氏では大きく異なる。茂木氏は、アップル創業者のスティーブ・ジョブズのような世界的なイノベーションを起こす人の精神は、「日本の新卒一括採用や偏差値教育などの画一的なシステム」とは「まったく逆の座標」に位置すると評する。
対する常見氏は、日本経済の競争力を高めてきたのは、ジョブズのような天才ではなく「名も無き普通の人たち」だと反論。目立たなくても仕事をきちんと仕上げる普通の人が大勢いるから、日本の商品やサービスの水準は高いのだと主張する。
常見氏の指摘はもっともだが、「画一的な大量生産」が強みだった日本の製品やサービスに限界が来ていることは否定できないだろう。その意味で、茂木氏が「新卒一括採用」は日本企業の課題に適応していないという指摘も納得できる。
「日本の競争力」を失わせないためにどうミックスするか
その一方で、常見氏は「『欧米に倣え』と急にシステムを壊せば、逆に日本の競争力を失わせてしまう」と警告しており、こちらも説得力がある。双方が提示した問題意識をミックスして、新しい雇用環境を作り出す必要があるのは確かだろう。
現行の慣行を擁護するように見える常見氏だが、「企業の採用基準が不明確なため、自分がわからない理由で何度も不合格になり、うつ状態に追い詰められる」学生がいるなど、現在の「就職活動」には問題もあると指摘する。
「機会は平等だから誰にもチャンスがあるはずだ、という思いが多くの学生を現実から遠ざけ、企業と学生を出会いにくくする構造を生み出している」
これを受け、大学は学生に判断基準として「卒業生の就職実績を提供すべき」と提案し、「『就職は平等ではない』という現実を受け入れることが、就職をめぐる諸問題の解決には不可欠」であると語っている。
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