いまや男性も、美容室に通う時代。リクルートビューティー総研の2013年の調査によると、20~34歳の男性の65.7%が美容室を利用している。しかし1978年の厚生省通知により、美容師は男性の「カットだけ」をしてはいけないことになっており、厳密にいうと法令違反になるおそれがあるのだ。
通知の趣旨は、美容師と理容師(いわゆる床屋さん)との「過度な競争を防ぐため」というものだが、当然、実態とかけ離れているという批判は絶えない。そんな規制を改めようと、1000円カットの「QBハウス」を運営するキュービーネットが動き始めた。
長期的には「理容師及び美容師の資格制度を統一すべき」
あらためて現行の規制を整理してみよう。現在、理容師には男女のカットおよび顔そり、ならびに「男性のパーマを伴うカット」が認められている。しかし、「男性のパーマのみ」は認められておらず、「女性のパーマ」もかけられない。
一方、美容師には、女性のカットと男女のパーマおよびパーマを伴うカットが認められているが、「男性のカットのみ」は認められておらず、顔そりもできない。このほか、理容と美容の施設は「それぞれ別個に設けなければならない」とも定められている。
この背景には、男性は床屋さん(理容師)に、女性は美容師にサービスを受けるという「性別による区分け」と、お互いの領域を侵さずに棲み分けるという考え方があったようだ。しかし、いまやそのような必要性は明らかに薄れているだろう。
この規制を変えるべく、キュービーネットは2月20日、政府の規制改革会議に「理美容業界の規制緩和要望書」を提出した。内容は以下の通りだ。
■要望内容
理美容業に係る規制について、下記の規制緩和を提言いたします。
(短期的には)同一店舗における理容所・美容所の重複開設届を認め、理容師・美容師の混在勤務を認めるべき
(長期的には)理容師及び美容師の資格制度を統一すべき
美容師の息子が父親の理容室で働けない「理不尽」
要望書は提言の理由として、3つのポイントをあげている。1つめは「ユーザーの趣向の変化」への対応。前述のような「性別による区分け」は、実態に即していないと指摘する。
2つめは従事者の「働き方の多様化」への対応。現状では、子育てを終えた美容師が近隣の理容室で勤務できず、理容室を経営している父親の店で美容師の息子が働けない。美容師が理容室で働こうとすると、理容師免許を一から取り直さなくてはならない。
3つめは、グローバルの視点からの「世界基準」への適応。「QBハウス」は海外94店を展開しているが、シンガポールや香港、台湾、タイ、マレーシアでは理容師・美容師の免許制度はなく、店舗による男女の利用区分もない。
キュービーネット社長の北村泰男氏はこの問題について、4月13日放送のワールドビジネスサテライト(テレビ東京)でこうコメントしている。
「お客さんも融合してきている以上、働いている人も融合して、それぞれの技術を持ち合って、より満足してもらえるサービスと生産性の高いビジネスを作り上げていける」
業界が直面する「人手不足」の解決策になるか
QBハウスを含め、業界が直面しているのは人手不足だ。少子化で、なり手が少なくなっているうえに、顧客も減っていく。「過度な競争を防ぐ」という通知の必要性も薄れている。
要望書によれば、顔そりやパーマの方法の差異を除けば、理容師と美容師には実質的に大きな違いはないという。理容師・美容師の混在勤務を認められたり、資格制度が統一されたりすることで、人材の確保や配置がずっと容易になるのは確かだ。
規制緩和によって、性別を問わず1つの店で、散髪からパーマ、顔そりが可能になり、理容師と美容師が共に働けるようになる日は来るのだろうか。
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