中国GPのあと、波紋を呼んだニコ・ロズベルグの発言。実際レース中に、メルセデス陣営とドライバーとの間に、どんなやりとりがあったのか。次戦が始まるまでに、あらためて振り返っておこう。
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「ルイスが、ゆっくり走ってない? ペースアップするように伝えてほしい」
20周目、ニコ・ロズベルグは苛立ったような口調でレースエンジニアのトニー・ロスに伝えた。無線交信をトト・ウォルフやパディ・ロウも聞いていることを知った上での訴えだ。
首位のルイス・ハミルトンは後方を見ながらペースを抑えて走っている。ロズベルグの後方にはフェラーリ勢が数秒差で迫り、前にも後ろにも身動きが取れない状態になっていた。ハミルトンからすれば、自身のレースを安全に走り切るためのマネージメントであると同時に、もちろん本人は否定しているが、あわよくばロズベルグがフェラーリ勢に食われれば──という淡い期待がどこかにあったはずだ。
「近づいたら第1スティントの時のようにタイヤを壊してしまう。それが問題なんだ!」
実は、第1スティント終盤の13周目あたりから、ロズベルグがプッシュして逆転を狙った場面があった。しかし前のハミルトンに近づきすぎたことでダウンフォースを失い、左フロントタイヤはグレイニングでささくれ立ってしまった。
「ノーノーノー! (無線の)コミュニケーションは減らしてくれ。ドライビングに集中したいんだ!」
ハミルトンとのタイム差を伝える無線に対して、ロズベルグが苛立ちを露わにする場面もあった。
「少しペースアップしてくれ。ターゲットは1分43秒7だ」
さすがにメルセデスのピットウォールが、ハミルトンに対してコンマ数秒のペースアップを指示した。フェラーリ勢の追撃に焦るロズベルグを落ち着かせようとするが、ハミルトンのペースはそれほど上がらない。
「ミニマムのターゲットは1分43秒3だ。そうでないと、ニコを先にピットインさせることになる」
第2スティント終盤、ハミルトンに対して“最後通牒”が言い渡された。そして30周目に3番手のセバスチャン・ベッテルがピットインすると、翌周にはアンダーカットを阻止するためにロズベルグが先にピットへ呼び入れられることになった。
なんとかベッテルに逆転されることは防いだが、ロズベルグがハミルトンに挑戦するチャンスは失われ、2位に甘んじることになった。レース直後のロズベルグは明らかに不満を抱いている様子だった。
しかし、そもそもメルセデスはコース上でのチームメイト同士によるバトルを許していない。ロズベルグは最大の敗因は予選だったと結論づけた。
「週末で一番残念だったのは予選で、たった100分の4秒差でルイスに負けたことだよ。そのせいでレースはかなり妥協するしかなくなった」
予選後のエンジニアミーティングを終えた後での会見でも、ロズベルグは何度も何度も「100分の4秒差でポールを逃した」と繰り返して悔しがっていた。メルセデスは前を走っているドライバーに優先権を与えるため、逃した魚は大きい。ミーティングでレースシミュレーションを行ったあとだけに、そのことが余計に強く感じられたに違いない。
そのなかでロズベルグは、やれるだけのことはやった。
「外から見れば理解するのは難しいかもしれないけど、第2スティントで(ハミルトンに)仕掛けなかったのは、第1スティントでアタックをしたけどうまくいかず、タイヤをダメにしただけだったからだ。だから、同じことを繰り返す意味なんてなかった。すぐ後ろにはベッテルがいたし、2位を失うリスクさえあったからね。実際ベッテルには十分な速さがあった」
そう言って、ロズベルグは自身を納得させた。
「レース後は、かなり緊迫した雰囲気だったけど、向かい合って前向きな話し合いができた。すべては過去のことになった。僕らはバーレーンに向けて前に進むんだ」
いまロズベルグに必要とされているのは、過去を振り返って恨み言を並べることではなく、次のレースでリベンジを果たすことだ。
(米家峰起)