2015年04月14日 10:31 弁護士ドットコム
インターネットで「検索」したときに表示される情報について、「自分のプライバシーが侵害されている」と考える人から削除要請があった場合、どう対応すべきかーー。検索サービス大手のヤフーは3月下旬、削除要請に応じるかどうかの基準を公表した。同社が削除基準を公にするのは初めてのことだ。
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今回の基準では、いくつかの場合ごとに、削除の可能性に差がつけられている。たとえば未成年の場合は、プライバシー保護を優先して、削除される可能性が高くなる。また、性的画像やいじめの被害情報のように、プライバシー保護の必要性が高い情報の場合も、削除の可能性が高くなる。一方で、公職者や著名人など、公益性が高い場合は、表現の自由を保護すべき要請が高くなるので、削除すべきかどうか慎重に対応する。
権利侵害が明らかな場合は、検索キーワードが被害者の名前などのときに限って、検索結果に表示されるタイトルや「スニペット」と呼ばれる要約文を非表示にする。タイトルとスニペットの両方を非表示にするのか、スニペット全文なのか、あるいは、スニペットのうち権利侵害の該当部分だけになるのかは、ケース・バイ・ケースだという。
ただ、例外的な措置として、個人の生命や身体に危険を生じさせうる情報や、第三者の閲覧を前提としていない私的な性的動画・画像の場合は、検索キーワードがどのようなものであっても、検索結果そのものを表示しないようにする。
このような判断基準が明らかにされたが、結局のところ、実際に情報を削除するかどうかは、表現の自由とプライバシーのバランスを考慮して、ヤフーが個別に判断することになる。今回の「ヤフー削除基準」をどう評価すべきか。インターネット情報の削除問題に取り組んでいる神田知宏弁護士に聞いた。
「ヤフーは今回、『スニペット』(検索結果に表示されるサイトの文章を抜粋した部分)にプライバシー侵害があれば、削除するという基準を示しました。これは、大阪高裁判決(2015年2月18日)でも示されている判断であり、好意的に受け止めることができます」
神田弁護士はこう指摘する。スニペットの非表示は、どういう効果があるのだろうか。
「個人のプライバシーを侵害するスニペットが、検索結果に表示されなくなるのですから、個人の私生活の平穏が守られることになるでしょう。
また、長期間経過した過去の軽微な犯罪歴を非表示にするという基準も示されており、これによっても、更生後の私生活の平穏が守られることになります」
では、今回の新基準は満足のいくものなのだろうか。
「まだまだ、不十分な点が大いにあります。
まず、例外措置以外は、検索キーワードが限定される点です。特定のキーワードが入力された場合にしか、その検索結果が非表示になりません。プライバシー侵害のページへ誘導する検索結果なのですから、どんなキーワードで検索された場合にも、非表示にすべきでしょう」
神田弁護士によると、ほかにも不十分な点があるという。
「『スニペット』だけを非表示にするという対応にも、問題があると思います。スニペットを非表示にしても、タイトルとリンクが残っていれば、プライバシー侵害の記事を表示できるのですから、スニペットだけでなく、タイトルやリンクも削除すべきだと思います。
また、スニペットだけが削除されていると、そこに知られたくない情報があるのだとわかりますから、むしろ、興味をもってクリックされてしまう危険があるでしょう」
今回、ヤフーが「検索結果の削除」に関する基準を発表した背景はなんだろうか。
「昨年5月のEU司法裁判所における『忘れられる権利』判決や、これに続く昨年10月の東京地裁におけるグーグルに対する検索結果の削除決定が影響しているものと考えられます。そのほか、昨年夏にはヤフーに対する京都地裁での判決もありました。
検索結果が違法となる場合はあるのか、そして、検索結果を削除せねばならないのはどんな場合なのかーーヤフーには、そんな問題意識があったのだと思います」
検索結果が「違法」だとされた場合、ヤフーにはどんなデメリットがあるのだろうか。
「プロバイダ責任制限法上、違法なコンテンツの存在を知りつつ放置すると、損害賠償責任を負う可能性があります。
ヤフーは、検索結果を削除しないことによる責任をどのように考えているのか、世の中に示したかったのだと思います」
いわゆる「忘れられる権利」との関係については、どう考えられるのか。
「『忘れられる権利』という言葉の定義は曖昧ですが、日本ではおおむね、『ネット情報の削除請求権』や『検索結果の削除請求権』という意味でとらえられています。
ヤフーが今回、ある程度これを認めたということですから、『忘れられる権利』にとっては、一歩前進したという印象です」
今後、どのように議論を進めるべきだろうか。
「今回はプライバシーに関する基準だけを公表していますが、ネットでの権利侵害はプライバシーに限った話ではなく、名誉権侵害や業務妨害など多岐に渡ります。これらの類型についても、議論を進めるべきです」
神田弁護士はこのように述べていた。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
神田 知宏(かんだ・ともひろ)弁護士
フリーライター、IT社長を経て弁護士、弁理士登録。著書としては、インターネット入門書も含めてパソコンソフト入門書が少なくとも70~100タイトル。元、日弁連コンピュータ委員会委員。公式サイトURL:https://kandato.jp/
事務所名:小笠原六川国際総合法律事務所
事務所URL:http://www.ogaso.com/