中国GPレース後のパドックで新井総責任者を取材していたら、「2台完走してよかったね」とチームのゲストから英語で声をかけられた。しかし新井総責任者は、その声にあまり反応することなく、苦笑いしただけだった。
ホンダが2台そろって完走したのは、2008年の最終戦ブラジルGP(11位ルーベンス・バリチェロ、13位ジェンソン・バトン)以来。マクラーレン・ホンダとしては1992年の第14戦ポルトガルGP以来のことだった。レースを終えた新井総責任者に笑顔がなかったことには、理由があった。
「開幕戦から、きちんと走ることを目標にしてきた。きちんと走るという意味は、ただ完走するというのではなく、予選で良いポジションにつけるということ。だから、今回完走できたのは良いことだけど、ここを目指しているわけでもないし、これで満足しているわけにもいきません」
しかし、これまでレースで頻発してきたトラブルが、少なくとも中国GPで発生しなかったことは事実である。
「ハードウェアの信頼性に関しては大きな問題が起きるとは思っていなかった。むしろ、いままでがいろんな問題を起こしすぎた。モグラ叩きもだいたい終わったように見えるけど、モグラは土の中にいて、どこにいるかわからないし、どこからか突然出てくるかもしれないので、安心はできない」と、新井総責任者は依然、慎重である。
というのも、中国GPでは予選前に行われたフリー走行3回目で、フェルナンド・アロンソのイグニッションに問題が発生したからである。
「P1(フリー走行1回目)とP2(フリー走行2回目)が順調だっただけに、P3(フリー走行3回目)の不具合が、結果的に予選になんらかの影響を与えてしまった。グランプリでは、どのセッションも無駄にはできないことを痛感した」(新井総責任者)
もちろんフリー走行3回目でのトラブルがなかったとしても、マクラーレン・ホンダがメルセデスに追いつけたわけはなく、レースで上位に食い込むためには予選でのペースをもっと上げなければならない。
「まずQ1のタイムを上げないといけない。中国GPで見せつけられた、トップとの1.8秒差をなんとかしないと、レースで自分たちが望む場所で戦うことはできない。それにはエネルギー回生システムのマネージメントをさらに熟成させることはもちろん、エンジンそのものの出力も上げないといけないでしょう」
そのためのアイデアはあり、やるべきこともわかっている。だが、モータースポーツは相手がいることなので、目標を実現しても追いつけるかどうかは別の問題だ。新井総責任者は「過ぎた時間を追いかけても無駄。一日一日を大切にしなければならない」と、限られた時間をいかに有効に活用すべきかに気持ちを切り替えている。
(尾張正博)