2015年04月13日 14:21 弁護士ドットコム
さいたま市の職員(56)が、市に無許可で水田を耕作して収入を得ていたため、地方公務員法に基づき「停職6カ月の懲戒処分」を受けたと報じられた。
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男性は1988年から、相続した埼玉県内の水田(2.6ヘクタール)でコメの生産をはじめたという。2001年ごろからは、知人などに依頼された耕作放棄地でもコメを作るようになり、現在は7ヘクタールもの水田で農業を営んでいた。
報道によれば、男性は「赤字であれば許可を得なくていいと思った。耕作放棄地をなんとかしたかった」と話しているという。農機具の購入費などで経費がかさんでおり、収支は毎年赤字だったという。
赤字だったのに「停職6カ月」という処分は、重すぎるのではないだろうか。行政問題にくわしい湯川二朗弁護士に話を聞いた。
「公務員の場合、法令違反や職務上の義務違反・職務懈怠(けたい)、全体の奉仕者たるにふさわしくない非行のあった場合は、戒告、減給、停職、免職といった懲戒処分を受けます。
しかし、具体的にどういう場合にどういう内容の懲戒処分を受けるのか、法律では明確に定められていません。そこで、各自治体ごとに懲戒処分の指針が定められているのです」
さいたま市の場合は、どんな指針があるのだろうか。
「さいたま市においても、国(人事院)と同じような内容の懲戒処分の指針が定められています。法令や処分指針では、副業そのものがいけないということではなく、『公務以外に報酬を得る事務事業に従事するのであれば、任命権者の許可を受けなさい』とされています」
地方公務員法で、公務員は、営利企業を経営したり、報酬を得て事業や事務に従事することが禁じられている(38条1項)。すなわち「副業」が禁じられているのだが、任命権者の許可が得ることで、副業が可能になるケースもある。
地域によっては、家業の手伝いとして、休日に農業や水産業に従事する公務員は珍しくない。ただし、「報酬」として対価を受け取ることはできず、建前上はあくまでも「手伝い」なのだという。
今回は、「無許可」だったことが、問題になったのだろうか。
「無許可で報酬を得る事務事業に従事した場合の標準的な処分は『減給』か『戒告』です。その他に、日ごろの勤務態度や、管理職であるとか、過去にも処分歴があるとか、動機・態様が悪質であれば、処分はより重くなります。
本件の場合は、無許可で農業に従事して収入を得ていたことが、法令に違反したと扱われたもので、さらに20年以上にわたって無許可で行っていたということが、情状悪質とみられたものでしょう」
それでも「停職6カ月」という処分はあまりに重すぎるのではないだろうか。
「先に見たとおり、さいたま市の処分指針では、無許可事業従事は、減給か戒告が標準とされています。いかに20年以上にわたって農業に従事していたとしても、他に特段の事情がない限り、停職6カ月は不当に重いのではないでしょうか」
このように述べたうえで、湯川弁護士は次のような指摘をしていた。
「最近では、飲酒運転撲滅運動の一環で、公務員が飲酒運転をした場合、とりわけ教育公務員の場合、それだけで懲戒免職処分がされることが多くなっています。しかし、裁判例をみると、さすがにそれは重すぎるということで、取り消されるケースが目立っています」
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
湯川 二朗(ゆかわ・じろう)弁護士
京都出身。東京で弁護士を開業した後、福井に移り、さらに京都に戻って地元で弁護士をやっています。土地区画整理法、廃棄物処理法関係等行政訴訟を多く扱っています。全国各地からご相談ご依頼を受けて、県外に行くことが多いです。
事務所名:湯川法律事務所