2015年04月13日 13:11 弁護士ドットコム
「お墓の継承の押し付けで困ってます」。弁護士ドットコムの法律相談コーナーに、自分の夫に対して、義父(夫の父親)から「本家の墓」を継ぐよう頼まれたという女性の悩みが投稿されていた。
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投稿によると、ガンで死期が近い義理の叔父(義父の兄弟)から、義父に対して本家の墓を承継するよう依頼があったという。ただ、義父は心臓が悪いことなどを理由に、自分の息子(相談者の夫)に対して、継ぐようにと連絡してきた。義父は、すでに20年間の墓の管理費10万円を受け取ったそうだ。
相談者の女性は「あまりにも理不尽な話」「息子のことも考えると継承したくない」と憤っているが、親族から押し付けられそうになっている墓の承継を拒否することはできるのだろうか。井上明彦弁護士に聞いた。
「お墓(墳墓)の所有権は、住宅や預貯金など一般の相続財産とは別の扱いになっています。具体的には、お墓の所有権を誰が承継するかは、3つの決め方があります。
第1に被相続人による指定。つまり、亡くなっていく人が指定します。第2に、その地方の慣習によって決められます。第3には、家庭裁判所の審判によって決められることになっています(民法897条)」
今回は、女性の夫に頼んできた義父は、被相続人ではないから、いくら息子に継がせたいと思っていても、勝手に決められる権利はないのではないか。
「はい。義父が、義理の叔父の意向とは関係無く、義父の代わりに相談者の夫にお墓を継がせようとしているのであれば、被相続人ではない義父にそのような権限はありません。夫は、拒否できます。
ただ、義理の叔父も、相談者の夫にお墓の所有権を継がせることを同意しているのであれば、話は別です。被相続人による指定があったと評価できますから、相談者の夫は、義理の叔父の死後、お墓の所有権を承継することになります」
しかし、継ぐほうも大変だ。お墓の承継は拒否できないのだろうか。
「お墓の所有権の承継については、一般の相続財産と違って、承継の『承認』や『放棄』の制度がありません。そのため、権利承継を放棄したり、辞退したりすることはできないというのが通説です」
このように井上弁護士は述べる。
「放棄を認めるべきという反対説もありますが、通説にしたがえば、相談者の夫はお墓を継ぐことを拒否できないことになります。
もっとも、承継したお墓を処分することも、法的には有効とされています。承継したお墓が宗教法人等から永代使用権を購入して使用しているものであれば、宗教法人に返還することも可能です」
だが、「本家の墓」を承継した人間が処分するとなると、ほかの親族から批判が出そうな気がする。
「そうですね。現実的には、本家のお墓を処分するのは、簡単ではないでしょう。
現実的には、まず、お墓を承継することの負担や、一方的に承継するよう言われることが決して気持ちの良いものではないといった本心を義父に伝えて、考え直してもらうようにお願いすることになるでしょうか。
それでも、義父が強硬にお墓を承継するよう求めてくるのであれば、お墓の処分も可能であることを説明することも、選択肢の1つになってくるでしょう」
井上弁護士はこのように話していた。少子高齢化が進む中で、今後、お墓の承継問題はさらに大きな問題となるだろう。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
井上 明彦(いのうえ・あきひこ)弁護士
広島市出身。広島大学を卒業して、2002年に弁護士登録(55期)。お墓の問題については、以前に墓地の経営トラブルに関する案件の依頼を受けたことがきっかけで、興味を持っている。
事務所名:広島法律事務所
事務所URL:http://hiroshima-law.jp/index.html