2015年04月11日 11:31 弁護士ドットコム
深夜にアルバイトが一人で店をまかされるなど、労働環境が過酷だと批判された牛丼チェーン「すき家」。運営会社のゼンショーホールディングスは、昨年から今年にかけて職場環境の改善に取り組んでおり、4月8日には進捗状況を報告する記者会見が東京都内で開かれた。
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その場には、ゼンショーの創業者で、いまも経営トップとして陣頭指揮にあたる小川賢太郎会長もいた。外食産業で日本一の企業グループを作り上げた小川会長だが、「すき家はブラック企業」との批判は相当こたえたようだ。会見では、ときおり目に涙を浮かべ、声を震わせながら、現在の苦境に対する思いを熱く語っていた。
いまのままでは「フード業世界一の会社を作って、この地上から飢餓と貧困を撲滅する」という創業以来の目標を達成できないーー。そんな危機意識を抱いた小川会長は、どのような思いで組織改革に取り組み、今後にどんな展望を見い出しているのか。
約18分間にわたり報道陣に訴えかけた小川会長のスピーチを、全文書き起こして紹介する。
【動画】「すき家」小川賢太郎会長が語った「苦悩と展望」はこちらから。https://youtube.owacon.moe/watch?v=1__57jsQlng
小川賢太郎会長:「本日は足元が悪い中、お越しいただきまして、ありがとうございます。
この間、『すき家』で労働環境問題をはじめとして、いろいろと問題が出ました。
1982年に資本金500万円で創業し、零細企業でしたけれども、2000年3月の売り上げで174億円という会社になりました。そのとき、日本のレストランランキングでは87位でした。そこから干支が一回りした2012年には、売り上げ4000億円を超えて、おかげさまで外食産業日本一になりました。こういう流れがあります。
創業以来、私をはじめとして、みんなが一生懸命に汗を流してメンバーが働いてきました。『フード業世界一の会社を作って、この地上から飢餓と貧困を我々の力でなくしていこう』『食のインフラ作りを世界でやっていこう』。こういうビジョンを掲げて創業して、みんなで頑張ってきました。
日本一になり、世界一になるビジョンを実現していく。こういう段階に入ってきたわけです。そのときに、このままでフード業世界一を成し遂げられるのだろうか、と。当事者として、最高経営責任者として、私は『このままではできない』と判断しました。
2012年からは、意識改革を含めて内部改革、特に幹部社員の変革をやりはじめました。しかし、『すき家』は強烈な、すごいチームです。業界の順位を変えるのは、ふつう難しいと思うんですけど、短期間で、一店舗からはじめてやってきた。強烈な『成功体験』を持ったチームだったんです。
オリンピックでいえば、外食産業の中でゼンショーは今、世界8位なんです。ようやくオリンピックのファイナリスト、片隅に立つことができるようになったんです。これから一番を狙うには、何をなすべきか。
やはり、私を含めて、今までやってきたメンバー全体の意識の変革が必要であると。本当は、内部からやるべきなんだけど、このままいったら時間がかかりすぎるということで、第三者委員会にお願いしました。それも一番厳しいと評判の久保利英明先生(第三者委員会委員長・弁護士)に『全部サーベイ(調査)してください』『結果を発表してください』とお願いしました」
「実は裏を言いますと、社内的には、非常にいろいろな反対意見がありました。社外取締役の方々も含めて、『企業としてのリスクが大きいのではないか』など、いろいろな意見がありました。しかし、ここをやらないと先の成長が難しいと考えました。
第三者の厳しい目で見て、問題を全部あげてもらって、全部受け止めよう、飲み込もうと。こういう考えで昨年、第三者委員会をお願いしてから約1年が経ちます。昨年7月31日の記者会見が一つの節目であったと思います。
『全部受け入れます』という考え方でやってきましたが、非常に辛かったです。私の家内なども買い物に行って、いつもなら『小川さん』と寄って来てくれる近所の主婦が、70メートルくらい先に見えると逃げていく。私だけでなく、社員、役員みんな、ある意味ではそういう思いをしてきた。覚悟の上ですから」
「どういうふうに改善をやっていけばいいのかということについては、社内的にも体制を強化し、第三者委員会からもご指摘いただいた社内のガバナンスの強化をやってきました。
やはり内部だけでなくで、いろいろな見識をお持ちの方から見ていただいて、『まだまだ問題あるんじゃないの』という目線でチェックあるいは提言をいただいた。私たちのリスペクトされる世界で、尊敬される会社になっていきたい、と。
そして、株式会社の力で、ヒト・モノ・カネを結集して、この地上から飢餓と貧困をなくしていく『食のインフラ作り』をプロとしてやっていく。こういう事業を本格的にできるようになってきたし、やろうじゃないかと。
こういうことで、今回、先生方に外部委員会にお願いして、『本当に改善できているのか』という目線で再びチェックしていただき、いろいろな意見をいただきました。特に島谷美奈子先生(キャリアカウンセラー)には、男の私が思ってもいないような目線で『シングルマザーが置かれている状況とか、気持ちがわかりますか?』という意見をいただきました。
そういうことも含めて、いろんな指摘とか問題提起、あるいは『こういうことをもうちょっと、やったほうがいいのではないか』という提案をいただきました。私どもがそれを本当に受け止めて、気持ちだけではできませんから、社内で『物質化』していく。こういうことを、特に今年になってからやってきました。
社内にはES室をつくりました。私は英語で言うのはあまり好きじゃないんですけど、従業員満足度をあげていくということを専門に毎日考えて、何をやったらいいのかを議論し、物質化していくセンターを置きました。
また労働組合も、労働環境という点では当事者です。当事者の重要な一つですから、『全国で働いているクルー、パートタイマー、アルバイトのみなさんの本音の意見を聞こうじゃないか』ということで、全国でスモール・ミーティングをはじめたという風にも聞いています。そこからも、いろんな提案もあがってきています。そういったことをES室に結集していきます」
「白井先生は早大総長をやられた方ですから、学生さんの立場や置かれている経済的・精神的な状況に精通しています。
そういう観点から、『すき家』は、特に地方で働く学生さんに大事な職場を提供している機能があります。逆に言うと、単に時給で働いてもらえばいいというのではなくて、働く学生さんを次の日本や世界を担う人材として位置づける。
『お店には全部ある』というのが私の基本的な考えです。ヒト、モノ、カネ、情報、経営。この一つのプロトタイプがお店なんです。そういう観点からの経営、あるいは商品の奥行きの深さ、肉一つとっても、米一つとっても、ゼンショーは一生懸命、良い質のものを安全に消費者にお届けするということをやってきました。
そういうことを学生さんに知ってもらう、学んでもらう。学生さんが将来どんな職業に就こうが、お客さんがいるわけです。そういったお客さんに対して喜んでいただくという考え方と思考回路を獲得していただく。このような考え方に基づいた『すき家』での仕事。そういう位置づけに次元を高めて、将来、成長の良い経験として、素晴らしい経験として・・・。
実際には、酔っ払いに絡まれたり、いろいろあるんです。そういうことも、人生における大事な経験ですよね。そういうことも含めて、どういう対応をしたらいいのか。どういう言い方したらいいのか。こういうことも『人生におけるノウハウである』と私は思っています。
『すき家』、あるいはゼンショーグループのお店で働く学生さん、それから主婦のみなさん、そしていろんな希望をもったフリーターの方たち。『演劇の世界で成功したい』とか、大変難しいでしょう。だけど、『それがやりたいんだ』とか。『ミュージシャンになりたい』とかいろんな方がいます。あるいは、『物書きになりたい』とか。
そういう人たちも、単に時給をもらうだけではなくて、いろんな出会いがあり、コミュニケーションがある。また今回みたいなことで、幸いにしてみなさんから一斉に叩かれて、そういうチームにいることの辛さとか・・・。
でも、逃げた人は少ないです。今年の新卒について、私も心配したんです。昨年10月1日に内定を出してから、いろいろ言われてきた。だから率直に言って、半分くらいは逃げられるかもしれない。本音のところ、そういう覚悟もしていました。グループで300名の新卒を迎えても、1人も逃げなかった。すごく嬉しかったです」
「いろいろご心配もおかけしてきましたし、率直に言って、まだまだできていないことも、いろいろあるんだと思います。でも、経営に終わりはないんです。日々良くしていきたい。改善していきたい。私はそう思っています。
『すき家』のチームも、ゼンショーホールディングスの社員もみんな、やはり『昨日よりも今日、いい会社にしよう』『いい組織にしよう』『いい仕事にしよう』と。
この間、私もそういう考え方で、改善運動もいろいろ勉強もしてきました。過去の製造業の体験も勉強して、トヨタさんに負けないような、それを上回るような立派な会社、みんなが考える組織、そしてみんなが毎日成長していけるような組織を・・・。世界8カ国で展開していますけど、日本だけでなくて世界で作っていけば、私たちの理念・ビジョンは実現できると思うし、ぜひ、これからやっていきたいと考えています。
厳しいご意見とか批判とか、私たちは糧にして成長したいと、本気で考えていますので、みなさんもよろしく見守っていただきたいと思います。どうもありがとうございます」
(弁護士ドットコムニュース)