2015年04月10日 10:51 弁護士ドットコム
暴力団員が組織内の規律を破った場合などに、自分の手の指を切り落とす「指詰め」。古いヤクザ映画のワンシーンに出てきそうな風習だが、今なお残っているようだ。
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報道によると、福岡県公安委員会は3月下旬、指定暴力団道仁会系の組幹部に対して、組員に「指詰め」を強要することを禁じる再発防止命令を出した。暴力団対策法(暴対法)にもとづくものだ。公安委員会が「指詰め」強要について再発防止命令を出したのは、全国で初めてという。
公安委員会は、この組幹部が2013年11月、脱退しようとした組員に対して「やめたいのなら指一本でも持ってこんか」と脅迫したとして、中止命令を出した。組幹部は昨年8月にも、脱退しようとした別の組員に指詰めを強要したという。
2人の「指詰め」は実際にはおこなわれなかったが、公安委員会は、幹部が同様の行為を繰り返すおそれがあると判断し、再発防止命令を出した。指詰めの強要は、法的にどう位置づけられるのだろうか。刑事事件にくわしい布施正樹弁護士に聞いた。
「指定暴力団の組員は、ほかの組員に対して、指詰めを強要したり、指詰めの補助をすることが禁止されています(暴対法20条)。
指定暴力団の組員がこの規定に違反する行為をしている場合、公安委員会は、その組員に対し、当該行為を中止することを命じることができます。また、さらに反復して違反する行為をするおそれが認められるときは、1年以内の期間で、再発防止命令を出すことができます(暴対法22条)。
この命令に違反した場合は、3年以下の懲役と250万円以下の罰金のいずれか、または、その両方が科されます(暴対法47条)」
そもそも、暴力団であるかどうかにかかわらず、指詰めを強要することは、罪にならないのだろうか。
「思いつくのは、刑法上の『強要罪』(刑法223条)です。
刑法上の強要罪は、
(1)生命、身体、自由、名誉もしくは財産に対し害を加える旨を告知して脅迫、または暴行を用いる
(2)(1)の脅迫・暴行によって人に義務のないことをおこなわせる
と成立します」
この場合、「指一本でも持って来い」と言うのは、強要罪にあたるのだろうか。
「『指詰め』が、義務のない行為であることは言うまでもありません。
しかし、『暴力団をやめたいなら指詰めをしろ』というのが、強要罪の成立条件とされる『脅迫』といえるかは、やや微妙かもしれません。
人の『自由』に対して害を加える旨の脅迫、と考えることもできますが、監禁されるような場合でなければ、解釈に争いの余地があるからです」
たとえば、ヤクザ映画やドラマでは、実際に指詰めをする組員から頼まれて、他の組員が指詰めを手伝うというシーンがある。この場合、手伝った組員は罪に問われるのだろうか。
「他の組員が手伝うことについても、暴対法で禁止されています。もし公安委員会の禁止命令が出て、それに違反した場合は罰則が科されることになります。
また、刑法上の『傷害罪』が成立するか否かについては、
(a)被害を受ける本人が同意しているのだから犯罪は成立しない
(b)指詰めは社会的に容認できない行為だから本人の同意があっても犯罪が成立する
という2つの見解があります。裁判実務では、(b)の見解が支配的のようです」
布施弁護士はこのように述べていた。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
布施 正樹(ふせ・まさき)弁護士
横浜弁護士会所属、同会刑事弁護センター運営委員会委員。刑事弁護・少年事件に特に力を入れて取り組む一方、一般民事事件・家事事件等も手がける。現在、他士業と連携した無料メールマガジン( http://www.mag2.com/m/0001640642.html )を発行中。
事務所URL:http://bengoshi-loj.jimdo.com/