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「昼は静かに寝かせて!」夜型の隣人に文句いわれた――入居者情報の「説明義務」は?

2015年04月08日 11:21  弁護士ドットコム

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隣は何をする人ぞーー。マンションに暮らす住人にとって、隣の部屋や上下の階に誰が住んでいるかは、ときに大きな問題に発展する。


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東京都心部の賃貸マンションに住むM子さん(39)も、その一人。幼稚園児と夫の3人で暮らすM子さんは、毎朝6時に起床し、23時ごろ就寝する。一方、階下に住んでいる水商売を営む夫婦は、完全なる夜型生活を送っている。



そのため、たびたび下の階から「こちらは日中に寝ているのだから、子どもをおとなしくさせられないのか」と抗議を受けるそうだ。しかしM子さんにしてみれば「走り回らないように注意しているし、生活音の範囲のはず」と反論したい気持ちだ。



集合住宅では、この「子育てファミリーと夜型生活者」のように、隣り合わせで暮らすとライフスタイルの違いから衝突してしまう組み合わせがある。



そうだとすると、不動産仲介業者や家主には、隣人の情報を「重要事項」として伝える義務があるのではないか。また、入居後に「不幸な組み合わせ」が発覚した場合、家賃などの払い戻しをしてもらうことは可能だろうか? 生長拓也弁護士に話を聞いた。



●「隣人情報」を説明する義務はあるか?


「不動産仲介業者が説明すべき『重要事項』に、隣人の情報は含まれていません(宅地建物取引業法35条第1項)。しかし、判例のなかには、不動産仲介業者や家主に対し、隣人の情報につき説明義務を認めたものもあります(大阪高判平成16年12月2日参照)」



隣人とのトラブルがあったため、購入した建物に入居できなかった買主が、売主と仲介業者を訴えた裁判のことだ。説明義務違反があるとして不法行為による損害賠償を請求し、大阪高裁で認められた。



では、M子さんのケースも同様に『説明義務』が課されるのだろうか?



「しかし、賃貸マンションの生活において、隣人とライフスタイルが違うのはいわば当たり前ですので、『ライフスタイルが違う隣人がいる』との事項が、この判例でいう『説明義務が課されるべき事項』とは言いがたいでしょう。



また、不動産仲介業者や家主が、下階の住民のライフスタイルを把握しておらず、M子さんの契約当時、M子さんに説明しようがなかった可能性もあります。



したがって、M子さんが、仲介業者や家主に対して説明義務違反を問うことは難しいでしょう。また、家賃はマンションに居住した対価ですので、M子さんがマンションに住んでいる以上、家賃の払い戻しを請求することも難しいと考えられます」



そうなると、M子さんは今後も、階下の住人からのクレームを聞き続けるしかないのだろうか。



「生活音レベルの物音であれば、一般に受忍限度を超えるとはいえません。そこで、M子さんが下階の住人に対して、何らかの法的責任を負うことはないと考えられます。まずは、不動産仲介業者や家主に事情を説明し、かれらを交えてお互いの話し合いによる解決を探ってみてはどうでしょうか」



(弁護士ドットコムニュース)



【取材協力弁護士】
生長 拓也(おいさき・たくや)弁護士
名古屋大学法科大学院卒業。平成20年徳島弁護士会に登録(新61期)。津川総合法律事務所のパートナー弁護士として勤務中。一般民事事件、家事事件、刑事事件・少年事件、会社関係事件等法律問題全般を取り扱う。

事務所名:津川総合法律事務所
事務所URL:http://lawone.web.fc2.com/index.html