2015年04月05日 12:41 弁護士ドットコム
最愛のペットが亡くなったとき、いつも通り仕事に行けますか? そんな問いかけが、ネットの女性向け掲示板に投稿された。
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投稿者の女性はその日の午前中、ペットと火葬場で最後のお別れをしたが、喪失感から情緒不安定になっていた。その後、夕方からサービス業の仕事に行く予定だったが、笑顔で接客するなどいつものように仕事をするのは難しい、と書き込んでいた。
社員の人数が足りているため休んでも支障がないようだが、女性は「社会人としては失格ですよね・・・」と不安そうだ。女性の問いかけに対して、コメント欄には「今日くらい、休んでもいいのでは?」「仕事は仕事と割り切るべき」と、さまざまな意見が寄せられた。
家族同然のペットが亡くなった喪失感は計り知れない。しかし、だからといって、会社を休む理由になるのだろうか。ペットロスのために会社を休んだら「社会人失格」なのか。労働問題にくわしい野澤裕昭弁護士に聞いた。
「労働者は使用者(雇用主)に対し、労働契約に付随する義務として、使用者の指揮命令に従って仕事を誠実に遂行する義務を負います。これを『誠実労働義務』といいます」
野澤弁護士はこのように切り出した。
「『誠実労働義務』のひとつに、労働時間中は職務に専念しなければならないという『職務専念義務』があります。ただし、専念する程度が問題となってきます。
最高裁の判例は『職員は勤務時間および職務上の注意力のすべてを職務の遂行のために用い職務にのみ従事しなければならない』としています。
こうなると、労働者は全精神を傾けて仕事をしなければならないことになります。一方で、そこまで専念する必要はなく、仕事になんらかの具体的な支障を生じさせなければ問題ない、とする見方もあります」
たしかに、一秒たりとも気をそらさず仕事に集中し続けることは、平常時でも、なかなかできることではない。ましてや相談者のように、ペットが死んで情緒不安定ともなれば、なおさら難しいだろう。
「今回のケースのように、ペットが亡くなった精神的ショックから仕事に集中できない場合、最高裁の考えに立てば、仕事に全精神を傾けることができないので、『職務専念義務』に違反することになりかねません。
無理して出社しても、かえって仕事に支障が出そうであれば、むしろ仕事を休むほうが『誠実労働義務』に合致するとも言えます。休んでも、社会人として失格だと思う必要はありません」
最後に野澤弁護士は、このように述べていた。
「ペットロスについては、獣医師の医療ミスでペットを亡くした飼い主が起こした裁判で、『家族の一員ともいうべき存在を失った』として慰謝料が認められており、法的保護の対象とされています。
ペットロスが精神的苦痛をもたらし、その精神的苦痛によって職務に専念できないのであれば、会社を休むことに問題はないでしょう」
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
野澤 裕昭(のざわ・ひろあき)弁護士
1954年、北海道生まれ。1987年に弁護士登録。東京を拠点に活動。取扱い案件は、民事事件、刑事事件、労働事件、相続・離婚事件等家事事件。正確、最善をモットーとしている。趣味は映画、美術鑑賞、ゴルフなど。
事務所名:旬報法律事務所
事務所URL:http://junpo.org/