会社が認めれば1か月程度の期間であれば好きな場所で働ける、ITベンチャーspice life(スパイスライフ)社の「リモートライフ制度」。対象は全社員で、費用は10万円まで会社負担だ。制度発表の際には、ネット上で羨ましがる声が多数見られた。
この制度を利用して、さっそく自己負担なしで花粉の飛ばない南の島でリモート勤務をした社員がいるという。制度の運用状況と効果について、吉川保男社長と開発部部長の五十嵐邦明さんに話を聞いてみた。
花粉回避で「生産性が東京勤務の2倍以上に」
ITエンジニアである五十嵐さんは、例年花粉症が重い。特にスギ花粉が辛く、2、3月は「集中状態に入れないんです」と明かす。パフォーマンスが落ちてしまうのを見越して、花粉症のない時期に仕事量をカバーしなければならなかった。
花粉のせいでパフォーマンスが落ちるなら、花粉のないところで仕事をすればいいじゃない――。というわけで、五十嵐さんは2月に新制度が始まったリモートライフ先に「沖縄」を選択した。東京ではスギ花粉が飛散し、マスク着用者が大量に出現する時期だ。
「結論からいうと、症状はほとんど出ませんでした。くしゃみも出ずベストのコンディションで仕事ができたので、東京にいるときの2倍以上のタスクを片付けられました。3月末に東京に帰ってきても、症状の軽さにびっくりしました」(五十嵐さん)
定期的なビデオチャット会議以外は中断が入らず、作業に集中できたというメリットもあった。さらに週末は離島の渡嘉敷島に行き、「仕事とリフレッシュが両立できる」ことが仕事のパフォーマンスを上げることに気づいたという。
沖縄には2週間滞在し、あとの2週間は台湾・台北に渡った。台湾で気づいたのは、小籠包と豆乳といった「外食でしっかりした朝食を摂れる」ということだ。これで生活リズムが整う。
「リフレッシュ」と「業務への集中」を両立
台湾人は優しく、生活はとてもしやすかったとか。週末は台湾南部での観光を楽しむことができた。ただし空気は、台湾より東京のほうがキレイだったという。
「ずっと東京にいると、東京の生活にどうしても慣れてしまう。でも、仕事場を違う場所に移すだけでリフレッシュになるし、そのぶん仕事にも打ち込める。生活してみることで東京の良さも再発見できるので、今回の試みは収穫のあるものでした」(五十嵐さん)
リモート勤務をしてみることで、気づいたこともあった。同社では大阪からフルリモートで勤務している人もいるが、大勢が1箇所にいる会議に1人でリモート参加すると声が聞き取りにくかったという。増設予定の新たな会議室では、遮音性の高いものを検討中だ。
さらにリモート勤務では、社内メンバーとの対面コミュニケーションが圧倒的に少なくなる。しかしその分をチャットなどで共有したり、社内に残ったメンバーが主体的に取り組んだりしてくれたことで、むしろチームとしてのパフォーマンスも上がったという。
「五十嵐はチームの中心的存在ですが、開発に集中してもらったほうが良いときもある。それによってチームメンバーの主体性も上がるし、五十嵐の経験を他のメンバーにシェアすることで、個人にも会社にもプラスのスパイラルが生み出せる」(吉川さん)
沖縄や台湾はエンジニアの多い地域なので、そうした現地のコミュニティと交流ができたことも副次的な効果だった。情報交換したことをシェアできれば、社内のナレッジ活性化にもつながる。
「通信環境」と「端末の故障」はリスク
今回の滞在はいいことずくめだったようだが、あえて課題について聞いてみると、リスクとして「通信環境」や「端末」の問題があると話してくれた。台湾は3G環境しかなく、最初はビデオチャットで日本と通信するのに苦労した。五十嵐さんは知り合いが経営する5XRUBY社に間借りすることで、なんとかWifi環境を確保したという。
「あとはMac(端末)が壊れてしまったときにどうするかですかね。僕も香港でiPhoneが通信できなくなったことがあって…。それは怖いです(笑)」(吉川さん)
五十嵐さんの試みを受けて、別の2人のメンバーも、札幌とサンフランシスコでリモート勤務を検討している。「他の人にもどんどん使ってもらって、自身のパフォーマンスを上げてもらいたい」と吉川社長が話すとおり、このユニークな制度を活用する社員は今後も増えそうだ。
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