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「残忍で野蛮」と批判された「銃殺刑」が米国で復活――日本でも認められるのか?

2015年04月02日 14:51  弁護士ドットコム

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死刑執行の30日前までに薬物を調達できなければ、銃殺刑の執行を認めるーー。米ユタ州のハーバート知事は3月下旬、死刑執行の方法として「銃殺刑」を復活させる法案に署名した。死刑に反対する欧州が薬物の輸出規制をしていることなどから、薬物の調達が困難になっているという。


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報道によると、米国では全50州のうち32州に死刑制度があるが、銃殺刑が認められたのはユタ州だけ。同州では2004年まで死刑囚が銃殺刑を選択できる制度があったため「復活」となる。



人権擁護団体からは「残忍で野蛮だ」と批判の声があがっているという。では、日本の場合はどうか。現在、死刑制度が存在しているが、銃殺刑は認められるのだろうか。元検事の岡田功弁護士に聞いた。



●「残虐な刑罰」にあたるかどうか


「日本の刑法では、死刑の執行方法について『絞首して執行する』と定めています。つまり、現在の法律上、絞首以外の死刑の執行方法は認められていません」



それはなぜだろうか。



「憲法36条は『残虐な刑罰』を禁止しています。



従来から、死刑自体が『残虐な刑罰』に該当するとか、絞首という執行方法が、『残虐な刑罰』に該当するとして、憲法違反だという見解が存在しています。



しかし、最高裁は、『残虐な刑罰』について、『不必要な精神的、肉体的苦痛を内容とする人道上残酷と認められる刑罰』だと判断しています」



絞首刑については「残虐ではない」と判断されているということか。



「そうです。最高裁は『執行の方法等がその時代と環境とにおいて、人道上の見地から一般に残虐性を有するものと認められる場合には残虐な刑罰となる』と述べ、死刑そのものと絞首という執行方法のいずれも、残虐な刑罰には該当しないと判断しています」



銃殺刑については、どう判断されるのだろうか。



「最高裁は、火あぶりや磔(はりつけ)という執行方法は残虐な刑罰になると述べる一方で、各国が採用する銃殺、斬殺、電気殺、瓦斯(ガス)殺等については、それ自体が残虐な刑罰になるとまでは述べていません。



最高裁の見解に従うと、今後、日本で銃殺刑が認められるには、銃殺が、不必要な精神的、肉体的苦痛を伴うものではなく、現在の時代と環境において、人道上の見地から一般的に残虐性がないと認められる必要があります。



しかし、残虐かどうかの評価は、歴史、宗教的背景、価値観の相違によって、国や民族、さらに個々人によっても異なるものですので、その判断はとても難しいでしょう」



銃殺刑は絞首刑と比べて、残虐性が異なるのだろうか。



「過去の裁判において、絞首刑が、多くの場合、意識喪失まで数秒から数分かかる場合があることや、頭部と胴体が切断される場合がありうるなど、受刑者が死亡するまでの『経過』を完全には予測できない問題点があることを理由に、残虐な刑罰に当たると主張されたケースがあります。



逆に銃殺刑であれば、絞首刑と比べて、そのような問題点は小さいのではないかと考えることもできます。執行方法の残虐性について、実際に比較や評価をすることは容易ではありません」



岡田弁護士はこのように述べていた。


(弁護士ドットコムニュース)



【取材協力弁護士】
岡田 功(おかだ・いさお)弁護士
東京弁護士会・元東京地検特捜部検事
事務所名:小室・岡田法律事務所