2015年04月02日 11:11 弁護士ドットコム
安倍晋三首相が国会で自衛隊を「わが軍」と表現し、批判を浴びた問題で、安倍首相は3月30日、「(これからは)そういう言葉は使わない」と述べ、自ら幕引きを図った。
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安倍首相は、3月20日の参院予算委員会で、野党から自衛隊と他国の軍との共同訓練について問われた際、「わが軍の透明性を上げていくことにおいて、大きな成果を上げている」と述べ、野党から批判の声が上がっていた。ネット上でも、発言をめぐって大きな議論が起こっていた。
「わが軍」という発言について、ネットでは「これは完全にアウト」「『間違えました』では済まない」など、多くの批判の声が上がった。一方で、「一種の例えとして『軍』と言うのも何の問題もない」と発言を擁護する声もあった。
このような反響に対して、安倍首相は、3月30日の衆院予算委員会で「他国の軍と対比するイメージで自衛隊を我が軍と述べた。それ以上でもそれ以下でもない」と説明。「大切な予算委員会の時間がこんなに使われるのであれば、そういう言葉は使わない」と述べ、収束を図ろうとしている。
首相の「わが軍」発言を、法律の専門家である弁護士たちはどう見ているのか。弁護士ドットコムに登録している弁護士に意見を聞いた。
以下の3つの選択肢から回答を求めたところ、24人の弁護士から回答が寄せられた。
1 安倍首相の発言に問題はあった→19票
2 安倍首相の発言に問題はなかった→3票
3 どちらでもない→2票
回答は<安倍首相の発言に問題はあった>が19票と最も多く、8割を占めた。<問題はなかった>が3票、<どちらでもない>は2票だった。
多数派の「問題はあった」という意見のほとんどは、憲法9条2項が「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない」と定めているという点を挙げていた。また、形式的に9条の考え方に反するという点よりも、憲法を尊重して擁護する義務を負う首相が、憲法を無視するような発言をしたことを問題視する意見も目立った。
今回の回答のうち、自由記述欄で意見を表明した弁護士16人のコメント(全文)を以下に紹介する。(掲載順は、問題はあった→問題はなかった→どちらでもない)
【秋山直人弁護士】
「自衛隊を『軍』と呼ぶことは、憲法9条が『陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。』としていることと矛盾します。これまでの歴代の政権も、自衛隊は『軍隊』ではないと解釈することで、憲法との矛盾を回避しようとしてきたわけです。首相が『軍』と口走ってしまったことは、失言として大目に見る余地があるとしても、官房長官がそれを正当化するコメントをすることは、明らかにおかしいと思います」
【居林次雄弁護士】
「安倍首相の信念は、憲法9条を改正して、日本を昔の軍国主義の国家に戻そうというところにあるように見えます。その信念の表れが、今回の発言であろうと思われます。積極的平和主義という首相の発言は、諸外国並みの軍隊を以て、国際紛争に積極的に参画したい、ということでしょうか。まだ憲法を改正しないうちに、自衛隊をわが軍、と呼ぶのは首相の信念からは当然のことでしょうが、自衛に専念するという自衛隊の根本を、憲法も変えないで、変えてしまうのは、問題でしょう」
【岡田晃朝弁護士】
「『陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。』と憲法9条2項に記載されております。自衛隊は軍隊ではないという主張で憲法との整合性を取ってきたのですから、軍と呼ぶのは問題でしょう。首相個人が、どのような思想を持っていたとしても、『公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。』(99条)のですから、討論の場などで、個人的に自己の考えを述べたなどの発言でない限り問題がないとは言えないでしょう」
【中井陽一弁護士】
「憲法9条2項には、『陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない』と規定されています。憲法は国家権力の歯止めを防ぐための、国の最高法規ですので、首相や官房長官が、憲法を無視していると思われる発言をすることは、問題があると考えます。自衛隊の実態を踏まえての発言であるとしても、そうであるならば、憲法改正がなされてからそのような発言をすべきではなかいと思います」
【大貫憲介弁護士】
「『わが軍』発言を失言と捉えるのは誤りです。三原氏の『八紘一宇』等、集団安全保障に関連する一連の言動等は、全て仕組まれていると思います。首相の発言が問題なのは、これらのプロパガンダ、閣議決定、アメリカからのお墨付き、立法等により、憲法の平和主義を変更しようとする点にあります。憲法を法律により変更することはできません。また、首相には憲法尊重擁護義務があります。首相は、この義務に違反しています」
【伊藤真悟弁護士】
「自衛隊は『軍』ではなく防衛組織であるというのが、憲法及び自衛隊法の定めで従来の政府解釈だったはず。憲法9条2項は『軍は保持しない』と定めているのですから。『わが軍』という発言は単純に無知です。官房長官の地位にあるものが、自衛隊という安全保障の中核を担う組織について無知をさらすというのは、日本の安保政策について不安を抱かせる出来事だと思います」
【長沼拓弁護士】
「自衛隊が、国外からどのように呼称されていようが、憲法上は『陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない』と規定されているのであるから、政府は、自衛隊を『軍』と認めるのであれば、自衛隊の存在が何故合憲とされるのかという説明責任を果たすべきであろう。少なくとも、従前の政府解釈を覆すことになるのであるから、『軍』の定義如何によるなどという説明では到底十分とはいえないだろう」
【吉江仁子弁護士】
「首相の発言は、戦時中に昭和天皇が『朕が陸海軍』(私の陸海軍)と言っていたことと似ていますが、本質的にまったく異なっています。現行憲法が、軍を保持しないと明文で定めていることに抵触する点は言うまでもありません。また、国民主権の憲法下で、首相が国家組織を我が物のように言うことも出来ません。このように、首相の発言は二重の意味で憲法を無視しています。国民主権も立憲主義も無視する態度は、独裁者の態度と言うべきです」
【小池拓也弁護士】
「憲法第9条第2項が陸海空『軍』その他の戦力はこれを保持しないとしています。したがって、『わが軍』である自衛隊が憲法第9条第2項の『軍』にはあたらない旨の解釈を省いたまま、自衛隊のことを『わが軍』と表現したら問題があることは当然です。憲法違反を公言するようなものです。これは明文改憲の是非以前の問題であることは勿論、解釈改憲の是非以前の問題だと思います。解釈がないのですから」
【岡本卓大弁護士】
「『失言』ではなく、総理の『本音』が出たのでしょうね。自衛隊が『軍』であれば、憲法9条2項に違反することになります。解釈で救済できる次元のことではありません。『国会』という場で『内閣総理大臣』が最高法規である『憲法を無視』する発言を堂々としているということです。個人の見解は自由ですが、法律家の意見としては、問題があると言わざるを得ません」
【板谷洋弁護士】
「他の弁護士も言われているように、安倍首相がリードする一連の動きをみると、本音が出たものと思われます。軍隊を持ち、法律を変え、憲法を変え、子どもたちの使う教科書を変え、戦前の日本に戻したいのでしょうかね。自民党内でも側近で固め、意見する人がいないのでしょうか。戦争を少し知ったうえで、憲法の恩恵を受けてきた私は、とても心配です」
【山本毅弁護士】
「憲法9条2項で、陸海空軍その他の戦力を保持しないと規定されているため、自衛のための必要最小限の戦力を持つは否定されていないとの技巧的な解釈で、警察予備隊、保安隊、自衛隊として設立された。自衛隊は軍隊としての武器などの装備は整えられているが、軍法会議がないなど法律上自立した軍組織になっていない。我が国の防衛を担う組織として、自衛隊を我が軍と呼ぶのは当然である。このような無意味な議論をやめるためにも、憲法9条2項を改正して自衛隊を軍隊としてきちんと位置づけるべきである」
【上條義昭弁護士】
「日本を取り巻く国際政治情勢を見たとき、中華人民共和国が、航空母艦を持ち覇権主義国家として日本を見下す姿勢すら取っている状態であって、1945年の日本が第二次世界大戦に敗戦したときとは全く異なって緊迫した国際政治情勢が存在しています。フィリピンを初めとする複数の国が中華人民共和国の領土拡張政策に苦しんでいる実態すら存在しているのに、『時代遅れ』といえる実情に合わない『憲法の条項』を変えようとしないことが異常に感じる。将来において日本が中国領土の一部になってしまっては大変である」
【中島繁樹弁護士】
「憲法9条2項が、陸海空軍その他の戦力はこれを保持しないと言っているわけですから、日本にわが軍というようなものがあってはいけないと考えて、安倍首相の発言に問題があるとするのは、憲法解釈上は当然です。解釈上そうなるのは議論するまでもありません。その程度のことは安倍首相はもちろん承知しています。ポイントはこの9条2項を維持することに合理性があるのかないのかということです。安倍首相の信念にしたがえば、取りうる途はおのずから定まっているとしか言いようがありません」
【濵門俊也弁護士】
「自衛隊の公式な英訳名称は『Japan Self-Defense Forces』とされています。しかし、日本国外においては、自衛隊は日本国の実質的な国軍として認知されており、『Japan Army(日本陸軍)』『Japan Navy(日本海軍)』『Japan Air Force(日本空軍)』と表記されることがあります。『国内的には<軍>ではないが、国際的には<軍>である』との命題を国会で議論することで何を生み出そうとしているのでしょうか」
【梅村正和弁護士】
「現在、日米安保のことを政治家やマスコミが普通に『日米同盟』という言葉で表現しますが、かつては『同盟』という言葉は軍事同盟を指す言葉であるため使用がタブー視されていた。しかし、今では普通に『日米同盟』という言葉が使われている。『軍』という言葉を使い続けていれば、『日米同盟』という言葉に国民の抵抗感がなくなったように、『軍』という言葉にも国民の抵抗感がなくなっていくのかもしれず、そういう狙いがあるのなら、なかなかの深謀遠慮だ。最終的には、その表現を国民が受け入れるかどうかでしょう」
(弁護士ドットコムニュース)