フェラーリがF1で勝利するのは、2013年のスペインGP以来、実に2年ぶりのこととなります。昨年は1993年以来となる未勝利シーズンを送ることになってしまったスクーデリア。暗黒時代の到来かと思われましたが、わずか1年で、息を吹き返してきました。
そのフェラーリ+セバスチャン・ベッテルのマレーシアGPは、完勝とも言える内容でした。昨年最強を誇り、開幕戦を圧勝したメルセデスAMG相手に、真っ向勝負を挑み、そして先着したのですから。しかも検証してみると、今回メルセデスAMGは、自力ではどうやってもフェラーリには勝てなかっただろうと思われるのです。
そもそも、開幕戦でもフェラーリが速い兆候はありました。オーストラリアGPを4番手からスタートしたベッテルは、ウイリアムズのフェリペ・マッサに前を抑えられたことでペースを上げられず、メルセデスAMGのふたりを追い切れませんでした。もし、ウイリアムズを早期に攻略できていたとしたら、実は開幕戦もメルセデスAMGが圧勝することはなかったのではないかとも思われます。
さて今回のレースは、タイヤを長くもたせ、しっかりとしたペースを長く維持できたことが、フェラーリ最大の勝因です。ほとんどのマシンが3ストップ以上を行う中、ベッテルはメルセデスAMGの2台とほぼ同等のペースで、2ストップで走り切ったのですから。チームメイトのキミ・ライコネンも、実質的には2ストップ(1周目に他車との接触で、タイヤをパンクさせてしまったために3ストップ)。他に2ストップで走り切ったのは、トロロッソのカルロス・サインツJr.とフォース・インディアのセルジオ・ペレスのふたりのみです。
ミディアムタイヤでスタートしたベッテルは、4周目のマーカス・エリクソンの事故で出動したセーフティカーの際にピットに入らず、17周目まで走り続けます。一方、ポールポジションからスタートし、序盤首位を走っていたメルセデスAMGのルイス・ハミルトンは、セーフティカーが出動するや否やすぐさまピットインし、わずか7周(予選3周+決勝4周)しか使っていないミディアムタイヤを捨て、新品のハードタイヤに交換しています。このことでハミルトンは、遅いマシンの後ろでコースに復帰しなければならず、先頭に立ったベッテルとの差は徐々に開いていきます。
3ストップのハミルトンが、2ストップのベッテルに勝つためには、より速いペースで走り、1回多いピットストップで失う時間(マレーシアの場合は23~25秒程度)を稼がなければなりません。しかし、ハミルトンのペースが上がらず、逆にベッテルとの差を広げられる結果となってしまいました。
しかもハミルトンは、サインツJr.、ロマン・グロージャン(ロータス)、ニコ・ヒュルケンベルグ(フォース・インディア)をかわして前が開けた後も、ペースを上げることができませんでした。その時のハミルトンのペースはベッテルとほぼ同等。遅いマシンを交わす際にタイヤを痛めてしまい、ペースアップすることがができなかったのでしょう。これでは、ピットストップが1回多い分のロスを埋めることはできません。対するベッテルは17周目にピットインし、ふたたびミディアムタイヤを履くと、一気に2秒もペースを上げています。これで、当初12秒あまりあったハミルトンとの差を7周のうちに埋め、コース上でオーバーテイクすることに成功します。この時点で、勝負は完全に決したと言っても良いでしょう。
ハミルトンにとっては、今回のセーフティカー出動は非常に難しいタイミングでした。メルセデスAMGはデグラデーションによるペースの低下を恐れていたとはいえ、最初のスティントでもう少し長く走りたかった。少なくともヒュルケンベルグの前で戻れるギャップを築いてから、ピットインしたかったはずです。このセーフティカーが無ければ、フェラーリとメルセデスAMGはもっと接戦になっていたことでしょう。
では、ハミルトンがセーフティカーのタイミングでピットに入らなかったら、どうなっていたでしょうか? スタート直後、ハミルトンは先頭を走っていましたが、ここでベッテルとの差を広げられませんでした。これも早々にピットインすることを選択した要因のひとつだったのでしょうが、せっかくの新しいタイヤで遅いマシンにひっかかるよりも、ベッテルの前を抑え、アンダーカットを警戒すれば、勝利の可能性はゼロではなかったように思います。おそらく、最初のピットストップをあと10周程度後ろにずらしていれば、ヒュルケンベルグの前でコースに復帰できたはず。とはいえ、メルセデスAMGのマシンのデグラデーションは大きかったため(ハードでもミディアムでも、10周程度走るとペースがガクっと落ちていました)、セーフティカー後にベッテルを抑え続けるのは容易ではなかったでしょう。
ただ、メルセデスAMGにはふたりのドライバーの作戦を分けるという選択肢もありました。例えばセーフティカー出動時にハミルトンはステイアウト、ニコ・ロズベルグだけピットインさせて勝利を目指すということです。こうすれば、フェラーリのストラテジスト(戦略家)を揺さぶることもできたでしょうし、もっと接戦に持ち込めた可能性もあります。デグラデーションを恐れすぎたのか、チームメイト同士の争いの弊害か、それとも昨年強さを誇ったことによる慢心か……。いずれにしても、メルセデスAMGは、最善の策を採り切れていないように思います。
とはいえ、どんな戦略を採ったとしても、メルセデスAMGが勝っていた可能性は、非常に低かったと思います。それほどまでに今回のフェラーリは安定して速かった。ベッテルは、勝つべくして勝ったという印象です。今後もフェラーリは、メルセデスAMGを苦しめるでしょう。一度は最後尾に下がりながら、最終的には4位でフィニッシュしたライコネンも、フリー走行ではベッテルと同等の速さを見せていました。フェラーリふたりは、メルセデスAMGにとって脅威となるでしょう。今後のレースも見逃せない、それを実感したマレーシアGPでした。