7年ぶりのF1復帰となった開幕戦を終えて、ホンダの新井康久(専務執行役員/F1プロジェクト総責任者)は一旦帰国。もちろん向かった先は、研究所がある栃木県さくら市だ。
「やっぱりオーストラリアGPの状態では勝負にならない。メルボルンの金曜日が終わった時点で、そうなることは予想できていたけど、ギャンブルしてデータが取れないような結果に終わらせるわけにはいかなかった。レースではジェンソン(バトン)にも、かなり負担をかけたと思う。だから今回ドライバーにストレスができるだけかからないよう、オーストラリアで思い通りに設定できなかった部分について、その原因を取り除いてきた」
ホンダがオーストラリアGPで抱えていた問題は、熱害だ。それによって制御系が厳しくなり、パワーユニット本体を思ったような設定で走らせることができなかったのである。オーストラリアGPの最高気温は金曜日の午後に記録した29℃、路面温度は45℃を記録していた。
全19戦で最も暑くなるグランプリのひとつであるマレーシアGP、セパン・インターナショナル・サーキットの金曜日の午後の気温は33℃、路面温度は60℃に達していた。新井総責任者は「いくつかのエリアで心配な部分はまだある」とフリー走行後にコメントしているが、金曜日に予定されている2回の1時間半のセッションでは致命的なトラブルを起こすことなく走りきった。その最大の理由はパワーユニットを動かすデータが、メルボルンとはまったく違うものになっていたからだった。
「オーストラリアGPから2週間足らずということで、理想状態にはまだ達していないが、この2週間でリカバリーしたものは、すべて入れた。開幕戦よりはMGU-Kもエンジン側の出力も出している」
トラブルフリーだった2回のフリー走行ではバトンが43周、復帰したばかりのアロンソの周回数も45周を数え、合計88周を走破。2台で走っているとはいえ、ホンダが1日で走行した周回数としては最も多い数字だった。
「空力のデータを取ったり、メカニカルグリップをいかに出すかという調整など、さまざまなメニューをこなしつつ、パワーユニット側でも1周あたりのエネルギー回収を最大2メガジュールにしたり、燃料のマックスリミット(1時間あたり100kgという燃料流入量の中で、1レースで100kgを使い切ること)を合わせたり、冷却系の確認をしたり、いろいろと試すことができました」
さくらで施してきた対策が功を奏し、新井総責任者も、ひと安心というところだろう。しかし、これで満足するわけにはいかない。
「われわれが開発してきたパワーユニットのポテンシャルは、こんなものではない。想定しているフルパワーで走ることができるよう、さらに改善していかなければならない。いまは早く、その段階へ突入できるよう努力したい」
暑いマレーシアで、ホンダの総責任者は冷静に今後を見通していた。
(尾張正博)