マザーシャシー勢の中でも独自の進化を続けるVivaC 86 MC 今季、スーパーGT300クラスで注目の存在となっているのが、GTアソシエイションが中心となって導入されたGT300マザーシャシー。今季4チームが使用することになるが、ライバル勢も注目する面白い存在となりそうだ。
GT300マザーシャシーは、『日本のものづくり』を育てていくためにGTアソシエイションが中心となり進めてきたプロジェクト。安価な専用モノコックと、GTAが独自に販売する4.5リッター自然吸気V8エンジン、6速パドルシフト式ミッション、トリプルプレートクラッチ等が組み合わされている。
●ドライバーの感想は「面白いマシン」
すでに昨年のタイ戦でプロトタイプがデビューを飾り、そのまま現地に残った車両は、タイのレースで大嶋和也の手によりFIA-GT3カーを打ち破り優勝。高いポテンシャルを示した。今季のGT300クラスには、その車両を再び日本に導入したTEAM UPGARAGE with BANDOH、復活を果たすVivaC Team TSUCHIYA、チームマッハ、そして独自のミッドシップレイアウトとボディを開発したカーズ東海のロータスSGT-EVORAの4台が参戦する。
このうち、最も早くシェイクダウンを行ったのは、カーズ東海のSGT-EVORAとVivaC 86 MCの2台。3月2日に富士で初走行を行い、各部をチェック。その後SGT-EVORAは鈴鹿でのメーカーテストに参加したが、ここでパフォーマンスを見せ始めるものの、1日目、2日目とクラッシュ。その影響で開幕までテストができない状況となってしまった。
一方、トヨタ86のボディをもつ3台が揃ったのは、3月14日~15日の岡山公式テスト。チームマッハのマッハ車検with「いらこん」は、前日の木曜に初走行を果たし、公式テストの2日間ではコースアウト等もあったものの、着実にマイレージを稼いだ。急遽声がかかりドライブした密山祥吾も「すごく面白いマシン」と言うように、このマザーシャシーは多くのドライバーが「面白い」と口を揃える。
「トラブルもありましたが、2日目にはレーシングスピードで走る事もできましたし、マザーシャシーのクオリティは高いと思います。乗りやすいですし、かなりエアロに頼って走るクルマだと思いますね。ストレートは遅いけどタイムは出るので、コーナーで稼げている」というのは、今季TEAM UPGARAGE with BANDOHに加わった中山友貴だ。
「一概にすべてのチームを比べるのは難しいですが、このチームはまとまっていて、スケジュールが苦しい中でもアップガレージさんのサポートもあり、RS中春さんのメンテナンスでしっかり2日間走り切れたのは大きかった。マルコ(アスマー)とも初めての仕事でしたが、スムーズにいっています」
また、坂東正敬代表も「(アスマーも)ルーキーテストをパスすることができましたし、いろいろな部分で初めてのものが多かった。タイで使ったものからダンパーやボディの補強もしましたし、ブレーキもエンドレスにしました。いろいろ手を入れてきましたが、潜在能力を感じることができています。ただ、GT300は今年激戦ですからね……。まだ(実際のポジションは)見えていないです」という。
●ノートラブルで急速に開発を進めるVivaC 86 MC
そんなGT300マザーシャシーたちの中で、ノートラブルで積極的に開発を進めているのが、VivaC 86 MCだ。「“職人”のDNAをできるだけ伝承、継承したい」というコンセプトで2008年以来のスーパーGT復活を果たしたつちやエンジニアリングは、富士でのシェイクダウンの後、さっそく給油口位置やボンネットピン、シートベルトの脱着など、さまざまな部分で改良に着手しはじめた。
迎えた岡山公式テストでは、最終的に2日目午後に4番手につける好走をみせる。ただ、この時のタイムは土屋武士によれば「アタックした訳ではないし、トラフィックがたまたまなかっただけ」だという。
「普通にやるべきメニューを時間内にしっかり終わらせることができた。富士は本当に転がしただけだったので、全開走行は今回が初めて。懸念されていた部分をひとつずつこなしながら、シフトのマッピングとかをやって、それからタイヤテストをガンガンやって。GT500でテストをやっていた時みたいで、フル回転です(笑)。エンジニアも自分がやっていたので、やり切った感じですね」
続く3月23日~24日の富士スピードウェイでのメーカーテストでも、VivaC 86 MCはノートラブルで着実にテストを終えた。しかも、今度は外観にも変化が。フロントフェンダーには新たにフェンスが設けられていたのだ。
走行後、土屋にこのフェンスについて聞くと「これはほとんどホームセンターで買ってきたもので作ったんです。岡山から富士の間で、何度ホームセンターに行ったか(笑)。領収書だらけですよ」というから驚きだ。これを岡山までに整形し、“富士仕様”は「また考える」という。過去にGTに参戦していた頃から見られていた、創意工夫で勝利を重ね続けていたつちやエンジニアリングの本領発揮といったところだ。こうしてJAF-GT300の規定内で改良を施せるのがマザーシャシーの魅力でもある。
ちなみに、「開幕戦の岡山までに他にもまた改良していく」と土屋は言う。「昭和のスタイルでどこまでいけるか(笑)。親父(土屋春雄監督)が作って、僕がそれを速くする……みたいな感じですね。いいバランスでやっていますよ」
「ここまでノートラブルだし、本当に良くできている。それにこのチームはやっぱりスゴいです。FIA-GT3の人たちにとっては困る存在になると思いますよ。でも、GT300ってこういう人たちがやってきたから、そういうクルマでなければならないと思うし、お金もかけなければ。それで人が育つのであれば、それをやるのが本意なので、ブレちゃいけないと思う」
●魅力あふれるマザーシャシー。“弱点”も
そんなマザーシャシーの速さにはライバル勢も大いに注目しているが、もちろんどこへ行っても速いという訳ではない。富士でのストレートスピードではFIA-GT3勢の中でも速かったフェラーリ458やメルセデスベンツSLS AMG GT3、ニッサンGT-RニスモGT3勢に対し、10km/h以上も離されている。コーナリングでは非常にクイックで、タイムとしては拮抗しているが、レースでは厳しい。「富士では苦しい」という意見はほとんどのチームで聞かれた。
また、岡山公式テストの初日午前はウエットだったが、そこでは今後に向けた課題も。「ウエットタイヤはマザーシャシー用が間に合っていない状況で、雨が降ったらレースできないくらい。もともと(GT3の)1300kg用のタイヤなので、1100kgのタイヤではないから、まったく走れるレベルではない。そこは懸念材料」と土屋は岡山のテスト後に語っていた。
しかしコーナーで速い……ということは、コーナリングが勝負となる舞台では、その強みが大きく発揮されるはず。土屋は「ロングの戦闘力はいいと思う。岡山での開幕戦としてはトップ10圏内で勝負できる準備は整っている。コンディションやちょっとしたミスで順位は変わるとは思うけど」という。
岡山には復活する予定のSGT-EVORAとともに、GT3カーとは違った個性を発揮しそうなGT300マザーシャシー。ぜひ4台の今後の進化に注目頂きたい。