3月26日、午後3時。セパン・サーキットのメディアセンターに併設された記者会見会場は、異様な熱気に包まれていた。開幕戦を欠場し、このマレーシアGPから復帰が決定したフェルナンド・アロンソが出席するからだ。
会見はアロンソのほかにニコ・ロズベルグ、キミ・ライコネン、カルロス・サインツJr.、フェリペ・ナッセ、ダニール・クビアトも出席、冒頭で司会者が出席者全員に1問ずつ質問したあと、出席しているジャーナリストとの質疑応答が行われる。通常20分ほどで終了する会見が35分間にも及んだのも異例だったが、この日はアロンソに極端に質問が集中した。事故後、初めて本人が語る機会となったため、ある程度は予想されていたが、19の質問のうち、16問がアロンソへ向けられたものだった。木曜日の記者会見でこれほど多くの質問がひとりのドライバーに集中したのは、おそらく初めてのことだ。
初めて事故の当事者が語ったことで、いくつかの新事実が明らかになった。だが、これですべての謎が解けたわけではない。むしろアロンソが事故の瞬間について口を開いたことで、逆に疑問が生まれたことも確かだ。
もっとも大きな疑問は「なぜ、アロンソはコースアウトしたのか?」。アロンソは「ステアリングがロックした」と主張しているのに対して、マクラーレン側は「データ上まったく問題はなかった」と公表している。かつてホンダの新井康久(専務執行役員/F1プロジェクト総責任者)も「マクラーレンのデータにはステアリングも含めて事故につながるような不自然なデータは見当たらなかったし、それはFIAにも提出して、FIAも確認しています」と語っている。
アロンソは「ステアリングに関するデータにはいくつか不十分なものもあったので、今はそれ(追加のセンサー)を搭載してもらっている」と、あくまでステアリングの問題を疑う見方を崩していない。
アロンソが出席した会見のあとに開かれたジェンソン・バトンの会見でも、話題はアロンソのステアリング問題に集中した。「トラブルの原因が特定されないまま、同じマシンに乗ることについてどう思っているのか?」という質問に、バトンはこう答えている。
「これに関しては、チームが長い時間をかけて確認した。ただ、もちろん、だからといってマシンに問題がなかったと言うつもりもない。そのマシンに自分が乗っていたわけじゃないからね。明確なことは、私のマシンのデータには何も問題はないということ。そして、それを確認しているから、私はこのマシンをドライブしている」
ひとつ言えることは、二度と同じような事故が起きてほしくはないということだ。
(尾張正博)