2015年03月27日 16:01 弁護士ドットコム
大切な家族に、もし介護が必要になったら——。施設に入れず、自宅で面倒を見たいと思う人は少なくないだろう。しかし、食事や排泄、入浴等の介助を行い、つきっきりで世話をする介護者の心身の負担ははかりしれない。ましてや介護者が高齢であり、終わりが見えない状況にあれば・・・。
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介護疲れを理由にした家族間の殺人事件は珍しくない。3月中旬にも、生まれつき重い知的障害をもつ54歳の長男を殺害したとして、80歳の母親が逮捕された。報道によれば、母親は「介護に疲れ、将来を悲観した」と話し、容疑を認めているという。この日の未明、首をタオルで絞めたり、口や鼻を手でふさぐなどして窒息死させたとみられている。
夫が認知症で施設に入所していることもあり、母親は10数年前から一人で、食事や排泄が自分ではできない長男を介護していた。過去には、脳梗塞を患っていたため「体が言うことを聞かないときもあった」状態だったという。
今回の事件のように「介護疲れ」から殺害に至ったケースについて、情状酌量の余地はあるのだろうか? もし情状酌量が認められる場合、どのくらいの刑が科せられるのだろうか? 元検事で、刑事事件にくわしい徳永博久弁護士に聞いた。
「殺人罪などの犯罪が成立した場合、諸々の具体的な事実関係を加味して、適正な刑罰を科すことになります。たとえば、以下のような事情が考慮されます。
(1)犯行に至る動機や事情について、同情する余地の有無
(2)計画性の有無(計画的な犯行なのか、一過性の過ちといった衝動的なものなのか)
(3)犯行態様(包丁で1回だけ心臓を刺したのか、執拗に全身を複数回刺したのかといった残虐性や、被害者に与えた苦痛の大小)
(4)犯行後の行動(遺体を放置したのか山中に埋めたのか、手足や頭をバラバラに切り刻んで駅や公園のゴミ箱に捨てたのか、といった証拠隠滅の有無や被害者の尊厳を損なう程度)
(5)反省の態度(後悔の念の有無、被害者又は遺族に対する謝罪及び損害賠償の有無)
(6)被害者や遺族の処罰感情の大小
これらをふまえて、刑が減軽または加重されることがあります」
徳永弁護士はこのように説明する。今回の事件については、どのような事情が考慮されうるのだろうか。
「本件では、80歳の高齢女性が一人で、食事や排泄が自分でできない長男を介護することによる疲労に加えて、『自分が死んだら息子は生活できない』という将来への悲観が原因となっていたものと思われます。
また、殺害方法も過度に残虐とまでは言えないことや、犯行後、母親が自ら長女に犯行事実を告白しており、逃走や証拠隠滅を図っていない点などから、刑が減軽される可能性は高いと思います」
具体的に、母親にはどのくらいの刑が科せられるのだろう。殺人罪の法定刑は「死刑または無期もしくは5年以上の懲役」だが・・・。
「実際に科せられる刑については、詳細な事実がわからないため推測になりますが、過去の同種事例からすると懲役3~4年の可能性が高いでしょう。また、懲役3年以下の執行猶予付き判決になる可能性もありうると思います」
徳永弁護士はこのように述べていた。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
德永 博久(とくなが・ひろひさ)弁護士
第一東京弁護士会所属 東京大学法学部卒業後、金融機関、東京地検検事等を経て弁護士登録し、現事務所のパートナー弁護士に至る。職業能力開発総合大学講師(知的財産権法、労働法)、公益財団法人日本防犯安全振興財団監事を現任。訴訟では「無敗の弁護士」との異名で呼ばれることもあり、広く全国から相談・依頼を受けている。
事務所名:小笠原六川国際総合法律事務所
事務所URL:http://www.ogaso.com/