会社説明会で、創業社長の話が始まる場面を想像してください。
「創業以来、私はあんな苦労やこんな苦労など、人一倍苦労を重ねてきた自信があります。しかし! それらに耐えて耐えて耐え抜いてきたこそ、今の隆盛があるのです」
この話の先を聞きたいと思う人はいるでしょうか? 人の自慢話ほど聞いていて、つまらないものはありません。中でも扱いに困るのが苦労自慢でしょう。「自分でその道を選んでおいて、苦労自慢をされても…」と思うのは、私だけではないはず。
「自分がしてきた事実」を話すだけでいい
本来なら誰も聞きたくない苦労自慢なのですが、就活生の中には「これが大事だ」とカン違いしている人がおられます。それも毎年毎年、何人もお会いします。
先日もたまたま駅前のカフェで隣に座った二人組の男子学生がこのカン違いをしていました。カフェにいると、就活の話が聞こえてくることがすっかり多くなりました。
聞こえてくる話から推測するに、2人とも理系の院生で、就活真っ最中のようです。彼らが話題にしていたのは、「学生時代に頑張ったことに何を書くのか?」でした。そこで2人が言い出したのは、「研究でものすごく苦労しているからそれを書こう」というものです。
「院生になってからは研究ばかりでバイトもできない」
「長期に休みになっても、しょっちゅう研究室に行ってる」
など、苦労した点を挙げていました。「これだけの苦労を乗り越えたという点をアピールしよう」という言葉に、思わず口出ししそうになっていました。
自分から苦労自慢をする人を、社会では「苦労を乗り越えた人」とは認識しません。本当に乗り越えている人は、「自分がしてきた事実」を話すだけです。その実体験を聞きながら、聴衆が「この人は苦労を乗り越えてきている人だ」と思うだけです。
聞きたいことの真意は「何にやりがいを感じるのか」
私が「学生時代に頑張ったこと」を聞くのは、「どんなことにやりがいを感じるのか?」を知りたいからです。苦労したかどうかなんて全く興味ありませんし、聞きたくもありません。
「頑張る」という言葉が苦労を連想させてしまうのかと思い、「学生時代に力を入れたこと」という表現で聞いたこともあるのですが、特に大きな違いはありませんでした。相変わらず、苦労話が好きな人に毎年お会いします。
だからといって、学生さんだけが悪いとは思っていません。本当に残念なことですが、就活本の類いが「苦労を乗り越えたことを書け」という内容を書いているからです。また、これらを鵜呑みにした就職課の職員が、間違った指導をしていることもあります。
このような情報に惑わされないように、「頑張った事実を聞きたい」という採用担当者の意図を知ってください。もちろん、ESや面接で「苦労した話を書いてください(話してください)」という指示がある場合は、苦労話をしてください。
個人的には、この設問が「良い人材を見抜くため」に効果的かどうかに疑問を持っていますが、就活生からすると「書け!」という指示に従わないわけにはいかないでしょう。私なら、苦労が好きな企業に入社したいとはあまり思いませんが…。
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