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姜尚中「学長」が突然辞任・・・学生が「入学辞退」したら学費を返してもらえるの?

2015年03月27日 11:42  弁護士ドットコム

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多数のテレビ番組への出演や90万部を突破するベストセラー『悩む力』などの著書で知られる政治学者の姜尚中(かん・さんじゅん)さん。その姜さんが、昨年4月に就任した聖学院大学(埼玉県上尾市)の学長を3月31日付けで辞任することが明らかになった。2018年まで5年間の任期で就任していた。


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姜さんは大学のホームページ上で、辞任について次のように記している。



「若い学生諸君と、共に語り合い、知ることの喜びや、生きることの悲しみ、そして希望を分かち合いたいと切望していただけに、残念です」



何とも思わせぶりな辞任のお知らせだが、大学側も姜さんも、突然の辞任の理由をはっきり明らかにしているわけではない。今回の背景として、姜さんと大学の間に、大学運営をめぐる意見の相違があったとも報じられている。



ところで、「姜さんが学長だから」と、今年の入試で聖学院大学を受験した生徒も少なからずいたのではないか。そんな人たちは「私たちこそ、残念です」とガックリとしているに違いない。「裏切られた」と感じた新入学生が、大学に対して「退学するので、学費を返還してほしい」と訴えることは可能なのだろうか。



●3月31日までに入学辞退すれば「授業料」は戻ってくる?


「入学の動機等に関係なく、授業料等については、3月31日までに入学辞退をした場合は、消費者契約法9条1号の規定により返還してもらえる可能性があります(最高裁平成18年11月27日判決)」



こう指摘するのは、齋藤裕弁護士だ。



大学入試では何校かを併願する学生が多いはずだが、本命・滑り止めともに合格した場合、学費の納入期限によっては、複数の大学に納めざるを得ないことがある。



しかし、学費返還をめぐる裁判で、最高裁は「授業が始まっていない以上、3月31日までに受験生が入学を辞退した場合、大学は原則として、授業料を返還するべきだ」という判断を示したのだ。ただし、入学金については、返還されないということだ。また、AO入試や推薦入試のような「専願」入試については、授業料の返還も認められないのが原則とされた。



では、4月1日以降に授業料等の返還を求めた場合はどうだろうか? 最高裁判例によれば、原則として、4月以降に入学を辞退しても、授業料は返ってこないということだが・・・



「姜さんが学長だという期待が裏切られたことを理由にして、4月以降に入学辞退した場合の授業料等の返還請求が認められるかどうかは、別の裁判例が参考になるでしょう。



声優養成学校において、募集広告では5人の有名声優による授業が受けられるとされていたのに、実際に受けられなかったというケースで、債務不履行による損害賠償が認められたというものがあります(東京地裁平成15年11月5日判決)」



●4月1日以降の「授業料返還」は難しい


聖学院大学によれば、姜さんは、学長就任後はスポットで授業に出ることはあったが、決まった講座は担当していなかったそうだ。



こうしたケースでは、どう判断されるのか。



「姜さんが学長であると宣伝されていたとしても、姜さんが直接授業などを行うと学生が期待していたわけではないでしょう。また、姜さんが学長であることは、客観的には大学選びの本質的な要素ではないと思われます。



ですから、姜さんが学長であるという期待が裏切られたからといって、4月1日以降に授業料等の返還を求めるのは難しいと思います」



大学選びは、さまざまな観点から慎重にする必要があるようだ。


(弁護士ドットコムニュース)



【取材協力弁護士】
齋藤 裕(さいとう・ゆたか)弁護士
刑事、民事、家事を幅広く取り扱う。サラ金・クレジット、個人情報保護・情報公開に強く、武富士役員損害賠償訴訟、トンネルじん肺根絶訴訟、ほくほく線訴訟などを担当。共著に『個人情報トラブル相談ハンドブック』(新日本法規)など。
事務所名:新潟合同法律事務所
事務所URL:http://www.niigatagoudou-lo.jp/