2015年03月25日 11:41 弁護士ドットコム
「ホワイトデーのお返しがない!」そんな理由で、首を絞められてしまうのかーー。大阪府堺市で3月中旬、年下の夫(31)の首を絞めた妻(43)が、夫の通報で駆けつけた警察官により、殺人未遂容疑で逮捕された。
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報道によれば、妻は「ネクタイで首を絞めたのは間違いないが、殺すつもりはなかった」と容疑を一部否認している。その際、「ホワイトデーにお菓子をもらえなかったので、嫌がらせをしようとした」と供述したのだという。夫は病院に搬送され、軽いけがをしていることが確認された。
一般的に「軽いけが」ということであれば、「傷害罪」になるようにも思える。しかし、この事件での逮捕容疑は「殺人未遂罪」だ。そのあたりは、どう考えればいいのだろうか?
「妻が『殺すつもりはなかった』と弁解していますから、殺人の故意(殺意)が認められるかが争点になります。殺意が認められなければ、殺人未遂ではなく、傷害罪になります」
刑事事件にくわしい泉田健司弁護士はそう指摘する。なぜ今回は「殺人罪」で逮捕されたのだろうか。
「よくテレビドラマで『未必(みひつ)の故意』という言葉を聞くと思います。これは、明確な殺意はないけれども、『もしかしたら、死んでしまうかもしれない。でも、かまわない』と思って、犯行に及んだ心理状態のことです。
この場合も、故意があるとして、つまり『人を殺す』という意思と犯行の結果を認識していたとして、殺人罪が適用されます。
また、いくら『殺すつもりはなかった』と弁解しても、客観的状況から『未必の故意』が推認される場合があります。たとえば、包丁で『腹部』を刺しておきながら『殺すつもりはなかった』と弁明しても、通用しません。他方で『手足』を狙って包丁で刺した場合は、殺意は認められにくいと思います」
この事件では、どう判断されるのだろうか?
「首をネクタイで絞めた行為自体は危険ですが、軽症にとどまっていることや、女性が男性に対して行った犯行であることを考えれば、殺意は認められないでしょう」
ではなぜ、警察は「傷害罪」ではなく「殺人未遂罪」で逮捕したのか。
「一般に、警察は、より重い罪名で逮捕状をとる傾向があります。当初は殺人未遂罪で逮捕されても、捜査の結果、傷害罪で起訴される例は少なくありません。ですので、本件もそこまで驚くようなことではありません」
最後に、泉田弁護士はこう語った。
「意外かもしれませんが、妻が夫に暴力を振るうという事案の相談も、ときどきあります。今回は、『ホワイトデーのお返しがない』というのが直接の動機ということですが、他方で、妻は『夫に不信感があった』と供述しているとの報道もあります。
夫婦関係は、他人にはうかがい知れません。ただ、夫婦といえども、節度ある振る舞いが必要ですね」
今回の事件では、妻の内心にくすぶっていたマグマが、ホワイトデーを無視されたことをきっかけに、爆発してしまったのかもしれない。「恋」が「(未必の)故意」に変わらないよう、日頃の思いやりが夫婦関係には欠かせない。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
泉田 健司(いずた・けんじ)弁護士
大阪弁護士会所属。大阪府堺市で事務所を構える。交通事故、離婚、相続、労働、企業法務等を中心に地域一番の正統派事務所を目指す。
ブログ:http://ameblo.jp/izuta-law/
事務所名:泉田法律事務所
事務所URL:http://izuta-law.com/