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「人手不足」の店で働くのは辛すぎる・・・もし自分が辞めたら会社から訴えられる?

2015年03月23日 11:41  弁護士ドットコム

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いま勤めている店を辞めたいーーそんな女性店員から、弁護士ドットコムの法律相談コーナーに相談が寄せられた。


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相談者は、正社員としてある店で働いている。本来なら6人体制で働くべきところ、現在はスタッフが4人しかおらず、1日2人というギリギリの人数で店をまわしているという。スタッフ募集をしているものの、応募者がないため、人が増える見込みはないそうだ。



そのため、長時間労働や休日出勤を強いられていて、「この人員不足の状況では、働くことが精神的苦痛だ」と、退職を考えている。しかし、もし自分が辞めれば、残されたスタッフの負担が増すうえ、店の運営が厳しくなるのは明白だ。



そこで、「私が辞めることで、会社側から損害賠償を求められたり、懲戒解雇になる可能性はありますか」と女性は質問している。そのような恐れがあるのか、上林佑弁護士に聞いた。



●退職するために「会社の承認」を得る必要はない


「労働者が退職することは、原則として自由です」



上林弁護士はそう語る。



「相談者は、正社員として働いているとのことですので、期間の定めのない雇用契約を会社との間で結んでいるものと思われます。



民法には、期間の定めのない雇用契約について『いつでも解約の申入れをすることができる』と定められています。そして、退職の申入れの日から2週間を経過することにより、雇用契約が終了します。



なお、月給制の場合は、この申入れを月の前半にしなければならないと定められています」



つまり、法的には、正社員は退職予定日の2週間前までに申し入れをすれば問題ないとのことだ。



「したがって、期間の定めのない雇用契約では、労働者に退職の自由があり、会社が労働者の退職自体を禁止することはできません。退職する際に、労働者が会社の承認を得る必要もありません」



●従業員の退職で「店舗運営」が大変になるのは会社の事情


では、相談者が心配するように、自分が辞めることで損害賠償を求められる可能性はあるのだろうか。



「例外的なケースを除いて、退職したことを理由として、会社から損害賠償を求められることはないでしょう」



例外的なケースとは、どんな場合だろうか?



「たとえば、相談者が会社の経営を左右するほどの重要な業務に就いているのに、引継ぎ等をせずに突然退職するといった信義則に反する行為によって、会社に重大な損害を与えた、というような極めて特殊なケースです。



自分が辞めることによりスタッフの人数が減り、会社の運営が難しくなるのは会社の事情であって、相談者が心配する必要はありません」



この相談者のもう1つの心配事が、懲戒解雇されないかということだ。



「懲戒解雇とは、在職中に、会社から労働者に対して一方的になされる処分です。したがって、今回のケースで、相談者が退職した後に懲戒解雇されるということはありえません。



ただし、相談者が、突然『本日退職する』との申入れをしても、さきほど述べたとおり、雇用契約は退職申入れの日から2週間を経過したときに終了しますので、申入れをした日から2週間は、まだ勤務を続ける義務を負います。



希望する退職日の2週間前までに、退職の申出をするようにしてください」



●有期雇用契約の場合は「期間満了」まで勤務する必要あり


では、パートや嘱託社員のような「有期雇用契約」の労働者の場合は、どうだろうか?



「期間の定めのある雇用契約(有期雇用契約)の場合、原則として、期間途中での解約はできません。もし有期雇用契約を会社と結んでいる場合は、期間満了まで勤務しなければなりません。



ただし、この場合でも、特別の事情があるときは期間の途中での解約ができると規定されています。したがって、長時間労働や休日出勤を強いられ、生命・身体に対する危険が予想されるような場合には、特別の事情があるとして、期間途中での解約もできるでしょう」



最後に、いくら人手不足とはいえ、退職に追い込まれるほどに労働環境が悪いのは、そもそも会社としての問題ではないだろうか。



「相談者は、長時間労働や休日出勤を強いられていたとのことですので、会社から時間外手当や休日手当が支払われていない場合は、会社に対して請求できますし、過酷な労働によって体調を壊したといった事情があれば、会社に対して損害賠償を請求できる可能性もあります」


(弁護士ドットコムニュース)



【取材協力弁護士】
上林 佑(かみばやし・ゆう)弁護士
仙台弁護士会所属。労働問題を中心に、債権回収、その他企業法務一般、交通事故、知的財産権等、広く取り扱っている。
事務所名:三島法律事務所