ワタミは3月19日、居酒屋の「和民」「わたみん家」のメニューを改定し、10年ぶりに「大幅な値下げ」をすると発表した。4月9日から順次、平均単価を1割程度下げるという。
これまでは増税などを理由に値上げを続けてきたが、戦略を転じる。顧客離れを防ぐ狙いがあるというが、ネット上には「原因はそこじゃない」といった、戦略に的外れ感を抱く声が数多く見られる。
「料理が遅い」「量が多すぎる」「価格が割高」を改善
ワタミの顧客離れは深刻だ。国内店舗の客数を前年比で見ると、2014年4~6月が95.4%、7~9月が92.7%、10~12月が92.9%と、軒並み1割弱の減少を示している。こうした影響から、2015年3月期通期の連結最終損益は70億円の赤字予想だ。
今回の発表では「アルバイト出身」として注目を集めた清水邦晃新社長が初めて会見し、値下げの主旨を説明した。ハイボールを450円から290円に値下げし、税抜き300円未満のメニューを2割から4割に増やすなど、大幅な値下げとなる。
「チェーンの居酒屋である和民・わたみん家には、安いというイメージがついていた。そこが値上げをしていくにあたって、お客様と求めるものの差が出てしまった」
「少しでも安く、少しでもおいしく。もう一度そこに立ち戻って、和民・わたみん家では、そのニーズに徹底して応えていきたい」
ワタミが値下げに踏み切った理由には、顧客アンケートの声があるという。「料理が遅い」「量が多すぎる」「価格が割高」という声が多くあがり、特に価格については、2~30代の若年層から不満の声が多くあがったという。
しかしツイッターやニコニコニュースなどネット上では、この値下げ発表に「必死だなw でも問題はそこじゃないんだがなw」「一度安くすると抜けられなくなるよ」といった声が多く挙がり、好意的な声はあまり見られない。
定休日設置、営業時間短縮しているが…
多くの人が指摘しているのは、「ブラック企業」というイメージの払拭に、値下げが有効な戦略ではないということだ。むしろ値下げは人件費にしわ寄せがいくのでは、と不安がる声のほうが多い。
「原材料高騰の中真っ先に削れるものと言ったら…」
「しわ寄せは店員にいくんだろうなぁ。ブラックのイメージを払拭するのに力を入れたほうがいいと思うんだが」
発表では今回の値下げによって、アイテム数や食材の絞り込みで「作業工程を減らす」としている。これまでの「付加価値を上げるために作業工程を増やし、皿単価を上げる」という戦略と逆行する形だ。
オペレーションを改善させれば、社員の負担は減るかもしれない。週刊ダイヤモンドの2月21日号によると、清水社長は労務問題の改善にも意欲を示している。
「逆説的ですが、売り上げが下がってきていることもあり、休日を設けたとしても利益にはあまり影響がありません。全体の3分の2の店舗で定休日を設けるなど、労務問題にも徹底的に取り組みます」
さらに100店舗超で営業時間を短縮するなど、具体策は講じてきている。しかしそうした施策も「値下げ」の発表でかき消される面がある。
「従業員の待遇改善のため値上げしますって言うほうがよっぽど」
「改善するポイントを間違ってる気がしますね」
「ど真ん中に立ち戻るも何も、まずは労働環境を相当丁寧に整えないと印象悪過ぎてスタート地点にすら立てない」
すき家は昨年夏に牛丼を値上げ
逆に労働環境の改善を全面に打ち出した「すき家」のゼンショーHDは、2015年3月期連結経常損益の赤字予想が一転して26億円の黒字となる見込みとなった。「経営は厳しい」というが、正社員賃金のベースアップも発表している。
ワタミの清水社長は日経新聞のインタビュー(15年1月)で「ブラック企業イメージの払拭」を再優先課題に挙げたが、昨年夏に牛丼の値上げをしてでも「ワンオペ解消」を目指したすき家とは対照的な戦略を取ったといえる。果たしてどのような結果が出るのだろうか。
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