2015年03月20日 12:11 弁護士ドットコム
村役場の女性職員にセクハラやパワハラをしたとして、その女性から1000万円の損害賠償を求める裁判を起こされた宮城県大衡村の跡部昌洋村長。問題がテレビや新聞で大きく報道されたこともあり、跡部村長は3月19日、議会事務局に退職届を提出した。
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跡部村長は、性行為を迫ったり、大量のメールを送りつけるなど、セクハラやパワハラを繰り返したとして、50代の女性職員から提訴された。女性の代理人によると、跡部村長は昨年4月から9月にかけて、公務出張先で宿泊したホテルなどで、同行した女性職員に計10回以上も性行為を迫ったという。また、昨年11月には、女性に次のような「誓約書」も書かせた。
「私と、跡部昌洋氏は、何事があっても別れることはしないし、長いお付き合いをすることを誓います。その中には色々な約束事を守ることを誓います。もし、この誓いを破った時は、いかなる事をされても、異議はありません」
この文書には「誓います」という言葉が入っており、二人の署名・押印もある。形式的には、誓約書の条件を満たしているようにもみえるが、法的に有効なのだろうか。田沢剛弁護士に聞いた。
「女性が書かされたという誓約書は、普通の心理状態であれば、わざわざ記載しないであろうことが記載されています。心理的に拘束された状態で書かされた疑いがある内容になっています。
もし、人事上の不利益な処遇をちらつかされて、性的関係を維持するために無理矢理書かされたというのであれば、公序良俗に反して、無効であることは論をまたないでしょう」
田沢弁護士はズバリ述べる。具体的には、どのような部分が問題になるのだろうか。
「まず、『何事があっても別れることはしないし、長いお付き合いをすることを誓います』の部分が問題です。
そもそも、男女の関係は婚姻関係にあるならいざ知らず、そうでない場合には、司法の助力を得てその関係を強制できるものではありません。誓約を破ったことに対して何らかのペナルティ(損害賠償など)を科すような性質のものでもありません。
自由を極度に制限する内容として、公序良俗に反するといえます。
また、どちらかに配偶者がいるような場合には、『不倫』になるわけですから、そのような不倫関係を維持させるべく司法が助力することなどあり得ません。この場合は、人倫に反する内容として、公序良俗に反することになります。
さらに、『長いお付き合い』というのも漠然としており、その内容を確定させることもできませんから、法的拘束力を持ち得ないでしょう」
では、「色々な約束事を守ることを誓います」という部分はどうだろうか。
「2人の間で約束がなされた場合に、守るべきなのは当然です。そのことを述べているに過ぎませんので、それ自体に何ら意味はありません。
もちろん、その約束自体が法的拘束力を持ちうるか否かは、実際に約束事がなされたときに、その内容によって判断すれば足りる話です」
最後に、『この誓いを破った時は、いかなる事をされても、異議はありません』という一文はどうだろうか。
「『どんな酷い報復を受けても文句を言わない』ことを誓約させるのですから、正義の観念に反することは明らかです。当然、公序良俗に反して無効になります。内容を細かく見ても、法的拘束力を持ち得ないといえるでしょう」
田沢弁護士は一刀両断に付していた。跡部村長が退職届を出したとはいえ、小さな村のセクハラ騒動がどうような結末を迎えるのか、今後も大きな注目を集めそうだ。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
田沢 剛(たざわ・たけし)弁護士
1967年、大阪府四条畷市生まれ。94年に裁判官任官(名古屋地方裁判所)。以降、広島地方・家庭裁判所福山支部、横浜地方裁判所勤務を経て、02年に弁護士登録。相模原で開業後、新横浜へ事務所を移転。得意案件は倒産処理、交通事故(被害者側)などの一般民事。趣味は、テニス、バレーボール。
事務所名:新横浜アーバン・クリエイト法律事務所
事務所URL:http://www.uc-law.jp