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「村長室で性行為を迫られた」宮城・大衡村長をセクハラで訴えた女性の代理人に聞く

2015年03月19日 20:31  弁護士ドットコム

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宮城県大衡村(おおひらむら)の跡部昌洋村長(66)から公務中に性交行為を強要されるなど、セクハラやパワハラを繰り返されたとして、村役場の50代の女性職員が、跡部村長に対して慰謝料など1000万円の損害賠償を求める訴えを仙台地裁に起こした。


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女性が3月13日に提訴したのを受けて、村議会は3日後の16日、跡部村長に対する不信任決議を可決した。だが、跡部村長はそのまま失職することを受け入れず、17日に村議会を解散することで対抗した。ところが、19日になって一転、村長は退職届を提出し、4月上旬に辞任することになった。



人口6000人にも満たない小さな村が、村長の「セクハラ・パワハラ疑惑」に振り回されている形だ。この事態はテレビや新聞でも大々的に報じられ、全国的に注目の的になっている。なぜ、このような騒動に発展してしまったのか。今回の提訴に踏み切った背景について、女性の代理人をつとめる藤川久昭弁護士に聞いた。



●「公務出張中に宿泊したホテルで性交行為を強要された」


――女性はどのようなセクハラを受けたのか?



「きっかけは昨年4月10日、跡部村長の公務としての東京出張に同行したことです。あろうことか、その際、宿泊中のホテルで村長から性交行為を強要されたのです。



その後、9月19日までのおよそ5カ月にわたって、出張先のホテルや、村長所有のアパート、村長が検査入院していた病院などで、十数回にも性交行為の強要が繰り返されました。



ほかにも女性が拒否したので実際に行為には及びませんでしたが、村役場の村長室でも性交行為を迫られています」



――女性は性的関係を拒否したのか?



「もちろん拒否しています。しかし、村の絶対的権力者である跡部村長に対して、逆らえない状況がありました。しかも、『関係を続けないと仕事上の不利益を与えるぞ』という内容のパワハラも受けていました。おそらく、一種の『マインドコントロール』の状況下にあったのだろうと思います。



また、主に性交行為の強要があった昨年4月~9月の期間は、セクハラメールやパワハラメールも送り付けられました。ただ、4月~6月の間のメールのほとんどは、村長から削除するように指示されて、女性は携帯電話から削除しています」



――女性がそのような状況から脱しようと思ったのはなぜか?



「きっかけは、女性が村の敬老会の行事でミスをしたことです。女性が対応をきちんとしたのに、村長から『なぜすぐ携帯に返事しないのか』『みんなの前でお前の失態を言うぞ』などと脅されました。



女性はそれまで『自分一人が我慢すれば済む』と思っていたそうです。関係を拒否すると、仕事が滞り、周りに迷惑がかかると思って我慢していました。しかし、人格を否定するような発言をされたことが、変わるきっかけになりました」



――どのような手段をとったのか?



「まず、女性は昨年9月23日に友人に相談しました。そのとき、『完全にセクハラ・パワハラにあたる』と言われたので、同じ日に、副村長と総務課長にも相談しました。ところが、2人からは『このことは聞かなかったことにする』と相手にされませんでした。ちなみに10月27日も、総務課長にセクハラ・パワハラの相談をしています。



女性は心を打ち砕かれそうになりました。しかし、友人からすすめられた特定社会保険労務士に相談したところ、『間違いなく法的に問題だ』『握りつぶすほうが悪い』というアドバイスを受けて、勇気を出して性的関係を完全に拒否すると決めました。その後、その方を通じて、私に照会があったのです。友人、社労士、弁護士が女性の告発を支えたという形になります。『一人ではセクハラと戦えない』という典型例だと思います」



●メールで「殿と呼べ」


――性交行為を拒否したあと、村長はどのような行動をとったのか?



「村長からはそれまでも、セクハラ・パワハラメールを送られていたわけですが、さらにエスカレートしました。



これまで確認できたメールは、性交行為を拒否する前のものも含めて全期間で1271通もあります。訴状では、約1300通としていますが、削除した過去のものを含めると、1500通くらいあるだろうと私は考えています。いずれ、準備書面で正確な数字を出したいと考えています」



――すべてがセクハラ・パワハラのメールなのか?



「すべてがセクハラ・パワハラメールにあたるとは限りませんが、そもそも短期間で1300通のメールは非常識でしょう。計算すると、1日あたり約10通になります。私たちは、これほど多くのメールを送ること自体もパワハラだと主張しています」



――メールの内容について、具体的に話せるものはあるか?



「裁判の都合上、現時点で具体的な内容を明かすわけにはいきませんが、休日にもかかわらずメールの返信を要求したり、休日の会食への送迎を強要したり・・・。ほかにも『殿と呼べ』という内容もありました。



さらには、メールに絵文字を使うよう強要したり、下の名前で呼んだりもしていました」



●「村長に近寄らないようにアドバイスした」


――その後、どのような展開があったのか?



「昨年10月下旬あたりから11月21日までの間、女性のお孫さんの問題をきっかけに、村長から新たな攻撃がおこなわれました。



女性のお孫さんが私立のこども園に入園する予定でした。それに対して、『職員としての権限の濫用じゃないか』という、ありもしない言いがかりをつけてきたのです。



結論から言うと、不正でも何でもなかった。私立のこども園ですし、女性には権限はありません。しかも、入園希望がすごく多かったわけでもありません。



ちなみに私は、このあたりから、本格的に本件に関わるようになりました」



●誓約書を強要された


「そんななかの11月10日、女性は村長から『誓約書』を手書きで書かされました。その内容は、次のようなものです。



『何事があっても別れることはしないし、長いお付き合いをすることを誓います。その中には色々な約束事を守ることを誓います。もし、この誓いを破った時は、いかなる事をされても、異議はありません』」



――誓約書は誰が持っていたのか?



「なぜかわかりませんが、女性本人も持たされていました。内容は、明らかに公序良俗に違反しますから、そもそも法的効力はありません。不貞行為を強制するようなものですからね」



――女性はなぜ「誓約書」を書いたのか?



「お孫さんのこともありますし、仕事を円滑にすすめるには、仕方がないと思ったようです。



しかし、すぐに、女性から私に対して、『先生、誓約書にサインさせられました』という連絡がありました。『法的根拠がないから安心してください。引き続き、関係を拒絶し、訴訟の準備をしてください』と伝えました。



さらに、村長に加担する村議が『お前の孫の入園を不正問題として、村議会の一般質問で取りあつかう』と言ってきたのです。女性が『不正じゃない』ときっぱりと否定したところ、今度は『村職員の教育問題としてあつかう』と」



――どのようなアドバイスをしたのか?



「女性には『誓約書があっても、当然だが、村長との関係は拒絶しつづけ、しかも、なるべく村長に近寄らないように』とアドバイスしました。



また、『もし提訴するようになると、あなただけではなく、家族にも影響が出てくるかもしれない。村も大変なことになるだろうから、よく考えてください。家族の了解をとってください』と伝えました。その後に、『家族の了解をとった』いう連絡がありました。



その後、女性は11月21日、村長室に呼び出されました。おそらく、村長にしてみたら『誓約書まで書かせたのに、なんで復縁しないんだ』という思いがあったのかもしれません。



しかし、まさか弁護士がすでに付いているとは思わなかったんでしょう。とにかく、私と村長は、そのとき、電話でやりとりをすることになりました。この電話の中で、村長は『わかりました。謝罪します』と述べています。このときの会話は、ボイスレコーダーの録音に残っています」



●村長「違法なセクハラはなかった」と答弁


――その後、村長のパワハラはなくなったのか?



「このときの謝罪を受けて、女性はいったん溜飲を下げました。『これからはセクハラもパワハラもなくなる。仕事も順調になる』と安心しました。ところが、そんな期待はあっさりと裏切られました。今度は、村長が彼女を避けはじめるようになったのです。



たとえば、職務上、村長に決裁を求めても、まったく応じなかったり・・・。困った女性から私のところに『村長が約束を守らない』という連絡がありました。



このような中、私から村長側に『謝罪に加えて、もう二度と近づきませんと一筆を入れてくれるのか』『仕事について不利益をしませんと言ってくれるのか』と伝えましたが、らちがあきません。



村長の代理人弁護士も『そちら(女性側)から具体的な提案をしてくれ』というばかりです。こちらはカネの問題として捉えていませんから、具体的な解決提案をしたくても、できません。村長側が考えるべきことです」



――どういう対応をとったのか?



「そういう状況の中、女性は再び絶望し、ついには、病気休暇をとらざるをえなくなります。われわれは、このまま待っても打開の道はないと思い、訴訟の準備をすすめておりました。



しかし、このころ、心ある議員さんたちが、噂を聞きつけて、村議会で、村長の女性に対するセクハラ・パワハラについて追及してくれる、ということになったのです。



そこで、今年3月10日の村議会で『大衡村役場のハラスメント防止・対策』という項目で質問がなされました」



――村長はどんな答弁をしたか?



「人をバカにするような答弁でした。副村長にも答弁させていました。『ハラスメント防止要綱は村長に適用はない』という内容です。また、女性が何回も、副村長と総務課長相談しているのに『ハラスメントについて認知していない』といったものでした。



そしてなによりも、村長らは、村役場に『ハラスメントはない』と答弁したのです」



――提訴に踏み切ったのは、村長の答弁が直接のきっかけか?



「そうですね。村長が反省すればと期待しましたが、答弁は完全に女性を失望させるものでした。また、村長の不信任決議が、議員の14名中12名という大多数で可決されたときの議会では、村長は『彼女との関係は大変仲が良かった』と開き直る発言もしています。



『違法なセクハラ・パワハラはない』とも言っています。こんなに大きなトラブルになったのに・・・びっくりしましたよ。まだ気づかないのかと。



当初の目的は、セクハラやパワハラをやめさせ、女性の働きやすい環境を回復させることでしたが、『村がセクハラを否定している』と諦めて、訴訟に踏み切りました」



●「まるで封建社会のような言動」


――セクハラやパワハラの証拠はどんなものがあるのか?



「さきほどの『謝罪』の会話のほか、一部のやりとりがボイスレコーダーに残っています。ほかにも、セクハラメールやパワハラメールを着信した携帯も残っています。



また、村長から渡されたアパートのカギも証拠の一つです。アパートのカギを渡すなんていうのも尋常じゃないと思います。女性はこのアパートに連れて行かれて、狭い部屋で押し倒されて、性交行為を強要されています」



――女性はいま、どのような心境なのか?



「性交行為の強要からはじまり、仕事上でも嫌がらせを受けて、女性は精神的に追い詰められていました。12月に病院で『うつ病』の診断を受けて、1月から病気休暇をとっています。



女性は涙をポロポロ流しながら、どのようなことがあったのか話してくれました」



――今後、どのようなことを主張していくのか?



「村長が女性に対しておこなったのは、極めて悪質な違法行為です。しかも、まるで封建社会のような支配従属下におこうとする言動や、女性に対する不利益な取扱いの示唆もありました。



法治国家においてまったく許容できない、甚だしい人権侵害行為といえます。村長という『公人』によるこのような悪質な人権侵害行為は、到底、許されるものではありません」



●村長の退職届「責任を免れようとしている」


――村長が村議会を解散したことはどう思うか?



「村長が解散したことには、3つの罪があります。



(1)村議会は、失職のリスクがあるにも関わらず、14名中12名の圧倒的賛成をもって、不信任決議を行いました。議長も辞職勧告しました。しかし村長は解散した。すなわち、議員の英断を踏みにじったことになります。



(2)解散によって、予算の議決ができませんでした。村長は、村民に生じうる不利益に思いをいたすことになく、延命・保身を優先させたのです。すなわち、村民を軽視したことになります。



(3)村長は、村議会による、セクハラ・パワハラを追及する活動をストップさせました。首長と議会のチェックアンドバランス機能が、砂上の楼閣であることを示しました。すなわち、地方自治への信頼を失わせたのです」



――村長が3月19日になって、退職届を出したことについては、どう思うか?



「予算未成立のまま村政を放棄し、辞職するとは、無責任の極みです。加えて、村長は、セクハラ・パワハラの責任を免れようともしています。この無責任な『逃げ』を、社会も個人も許してはならないと思います。原告も激しく憤っています。



しかし、このような無軌道な行動によって、ますます国民の目は、村長に注がれるでしょう。私達は監視の目を緩めてはなりません」



(弁護士ドットコムニュース)



【取材協力弁護士】
藤川 久昭(ふじかわ・ひさあき)弁護士
クラウンズ法律事務所代表弁護士
事務所名:クラウンズ法律事務所