ビジネス用語に「TPO」というものがあります。Tはtime(時間)、Pはplace(場所)、Oはoccasion(場合)というものです。服装から態度、言葉遣いなど、さまざまな要素をこの3要素に合わせて変えていくべきということです。
いつもと同じことをしているのに、「TPO」が異なるだけで大変なハラスメントに発展する場合もあります。特に飲み会の場は油断しがち。自分はコミュニケーションに問題はないと信じている人ほど、あらためて意識して欲しいものです。(文:ナイン)
いつものように「おい、デブ!」と注文の声をあげたが
これは私の上司だった男性店長の話です。店長は若くして昇格し、上司からの評価も高い出世頭でした。新店舗の店長を任され、店にいるアルバイトたちにも慕われていて、「課長になる日も近い」と言われていました。
店長は頭髪が薄いのですが、自らそれをネタにする関西出身のノリの良さもありました。中でもS君というアルバイト学生と仲が良く、ぽっちゃり体系の彼とは「おいハゲ!」「なんだよデブ!」と冗談交じりにお互いを呼び合う仲でした。
文字で書くといじめに見えますが、周りで聞いていても不快になることはなく、「またやってるなぁ」と微笑ましく見ていました。
ある日、私の働く店で課長や部長も集まる会議がありました。他店の店長も出席し、会議後には飲み会もあり、店長たちの席はS君が担当することになりました。店長は普段どおり、こう注文の声をあげました。
「おい、デブ! はよドリンク持って来んかい!」
「S君、何年やってんねん。テキパキ動かんと!」
しかしS君はいつものような反応をせず、黙々と仕事をしていました。身内が相手だからといって雑にならないよう配慮していたのか、店にあまり来ることのない部長相手に緊張していたのかもしれません。
会社に告発「他店の店長も集まる会なのに」
店長はお酒が飲めず、こういったノリはお酒の勢いではありません。しかしS君は、なぜか浮かない顔をしているようにも見えました。いつもの彼なら、こんな風に返すところです。
「うるさいわハゲ! 店長の頭の光が反射して周りが見えないから、動きにくいんスよ!」
次の日、シフトに入っていたS君が出勤してきません。真面目な彼が連絡もなく来ないなんて珍しいと思い、どうしたのかと心配していました。
しばらくすると店長が部長に呼び出され、そのまま謹慎処分が下されました。どうやらS君は、会社に対して店長の「パワハラ」を告発したようです。
「部長や課長、他店の店長も集まる会で、そんな風に言うなんて信じられない。店長の対応がおかしい。あのノリは仕事中だけのものだろう」
彼の言い分は、このようなものだったそうです。この話は社長の耳にも入り、社長直々の指示での謹慎処分であったと聞いています。
結局、店長もS君も職場にいられなくなる
ところが店長は、この処分に納得がいかなかった模様。結局、謹慎は解かれることはなく、そのまま退職してしまいました。
「S君への対応のまずさは認める。でも社長に謹慎と言われたからといって、一緒の現場にいた部長や課長はオレを守ってくれないのか。こんな薄情な会社、辞めてやる!」
S君もこんな大事になると思っていなかったようで、店に残りづらくなり退職しました。飲み会でのちょっとした対応が、こんなにも後味の悪い事態へと発展してしまいました。私も2人を知るだけに、今でも残念に思う出来事です。
あわせてよみたい:デフレ下の居酒屋チェーンは正社員のサビ残で成り立っていた