2015年はウイリアムズ vs フェラーリが、ひとつの見どころになりそうだ。その第1ラウンド、開幕戦で予選トップ3を奪ったのはフェリペ・マッサ。しかし、表彰台をめぐる戦いはベッテルが制した。ふたりの攻防を、レース中の無線交信から分析。
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「ベッテルはタイヤがタレてきている。もうすぐピットインするぞ。ピットの出口で接戦になるからプッシュしろ。予選ラップで走れ!」
24周目、履き替えたばかりのタイヤでプッシュするフェリペ・マッサに、今年からコンビを組むレースエンジニアのデイブ・ロブソンが伝えた。3番手を走っていたマッサは21周目にピットインを済ませたが、ダニエル・リカルドに引っかかっていた。
「ベッテルがステイアウトしたから、プッシュし続けてリカルドをパスする必要があるぞ」
「リカルドを抜く必要がある。ベッテルとの争いはかなりタイトだ」
23周目にリカルドがピットに向かい、ようやく前が開けたが、このタイムロスは痛かった。
一方、マッサの1.5秒後方を走っていたセバスチャン・ベッテルはマッサのピットイ
ン直後から猛プッシュを仕掛け、オーバーカットを狙う。
その戦略は見事に成功し、ベッテルはマッサから3位を奪い取ってみせた。
「良い展開だ。ハミルトンとロズベルグはすでにピットストップを済ませ、我々は彼らから16秒後方にいる」
そう伝えるベッテルのレースエンジニア、リカルド・アダミはトロロッソ時代にもコンビを組んでいた相手だ。
ベッテルに先行を許してしまったマッサは、いったんは5秒近くまで開いたギャップを40周目を過ぎたあたりから再び縮め始めた。
「ペースは良い。前のベッテルは燃料をセーブしている。彼よりも速いぞ」
「良い仕事をしているよ。まだベッテルと戦っている。残り9周だ」
しかし、ベッテルは最後までペースをコントロールし、3位表彰台を掴み取った。フェラーリとウイリアムズのペースはほぼ互角だったが、マッサとウイリアムズ陣営はピットストップのタイミングで表彰台を逃したことになる。
「とても良いドライビングだったよ。ピットストップでベッテルにポジションを奪われてすまなかった。でもクルマは良さそうだし良いリザルトだ」
チェッカーを受けたマッサにロブソンが謝った。
「そうだね、昨年より良いスタートが切れた。次のレースに向けてプッシュし続けよう」
前向きに答えたマッサの声も、心なしか沈んで聞こえた。
第1スティントのウイリアムズは、マッサにタイヤの状況を確認しながら“プランA”を貫き通した。1ストップ作戦はほぼ間違いないコンディションだったが、マッサが18周目に「左フロントは少しデグラデーションが進んできたけど、まだOKだ」と答えたこともあって、ターゲットラップまで完全に予定通りの21周目にピットへと呼び入れてしまった。後方には古いタイヤで走り続けるリカルドがいることはわかっていたはずなのに、だ。
「もしかすると1~2周後にピットインしていれば何も問題なかったかもしれない。正しいタイミングでピットストップすることができなかったことでダニエルを抜くのに1.5秒ロスして、セバスチャンの前に留まるチャンスを失ってしまったんだ」
レース後そう語ったマッサの肩はガックリと落ちていた。
(米家峰起)