2015年03月17日 21:41 弁護士ドットコム
福井大学の准教授の男性が教え子の女性を殺害したとして逮捕された事件で、男性が警察の取調べに対して「(被害者の女性から)殺してくれと言われた」という趣旨の供述していると報じられた。
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報道によると、准教授の男性は3月12日、勝山市内で止めた車の中で、教え子の大学院生の女性(25)の首を絞めて殺害した疑いがもたれている。男性は警察に「(被害者の女性は)死にたがっていた」「薬を飲んで苦しがっていたので助けた」などと供述しているという。
また、フジテレビ系の放送局によると、殺害された女性の首や顔、容疑者の男性の手には、首を絞められた際に抵抗してできる、ひっかき傷がなかったと報道されている。
仮に「殺してくれ」と言われて人を死亡させた場合、通常の殺人に比べ、罪の重さに影響はあるのだろうか。刑事事件にくわしい神尾尊礼弁護士に聞いた。
「まず、本件は捜査中の事件ですから、ある程度、一般的な回答しかできないことをご了承ください」
このように断ったうえで、神尾弁護士は次のように説明する。
「報道を前提にすると、『嘱託殺人罪』または『自殺ほう助罪』が成立する可能性があります」
それぞれ、どんな犯罪なのか。
「嘱託殺人罪とは、人から『殺してくれ』と依頼を受けた側が、その依頼した人を積極的に殺害する犯罪です。
一方、自殺ほう助罪とは、自殺を助けるという犯罪で、頼まれた側があくまで補助的な役割を果たす場合です。
これらは一応区別できますが、法定刑も一緒ですし、程度の問題とさえいうことができるでしょう。むしろ、普通の殺人罪との区別が重要になってきます」
嘱託殺人罪と普通の殺人罪は、刑の重さが違うのだろうか。
「嘱託殺人は、普通の殺人に比べ、罪が軽減されています。
普通の殺人罪の法定刑は『死刑または無期もしくは5年以上の懲役』なのに対し、嘱託殺人は『6月以上7年以下の懲役または禁錮』とされています」
刑の重さに、かなり差があるようだ。どういった理由からだろう。
「理由については、さまざまな説があります。
たとえば、被害者が自分の命を放棄している以上、その願いをかなえる行為は、普通の殺人と比べると悪いとはいえないなどと説明されます」
被害者が死亡した後で、依頼があったかどうかを、どうやって判断するのだろう。
「たしかに、普通の殺人と区別が難しい場合があるでしょう。
自殺の決意や殺人への同意は、死の意味を理解した『任意のもの』である必要があります。
しかし、たとえば脅迫などによって自殺するよう追い込まれた場合や、偽装心中のように関与者も一緒に死んでくれると勘違いした場合など、殺人罪との区別が問題になることがあります。
この場合、客観的な状況を中心に総合的に判断することになりますが、被害者も極限的な心理状態であることがほとんどですから、かなり微妙な判断になるでしょう。
少なくとも、現在報道されている事情だけから判断することは早計だろうと考えます」
神尾弁護士は、このように述べていた。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
神尾 尊礼(かみお・たかひろ)弁護士
東京大学法学部・法科大学院卒。2007年弁護士登録。埼玉弁護士会。刑事事件から家事事件、一般民事事件や企業法務まで幅広く担当し、「何かあったら何でもとりあえず相談できる」事務所を目指している。
事務所名:彩の街法律事務所
事務所URL:http://www.sainomachi-lo.com