2015年03月17日 20:31 弁護士ドットコム
いまの日本では離婚はごく普通の光景で、1年に約20万組のカップルが離婚する。その中には、別のパートナーと「再婚」する人もいる。しかし離婚してすぐに再婚できるかというと、男と女で大きな違いがある。男性は離婚した直後でも再婚できるが、女性は離婚から「6カ月」たたないと再婚できないのだ。
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これは民法733条に定められた「再婚禁止期間」と呼ばれるルールだ。この再婚禁止期間が女性に限って「6カ月間」とされているのは、憲法14条の平等原則に反して違憲だ――そう訴えている裁判がある。この裁判がついに「最高裁大法廷」で審理されることになった。
最高裁大法廷は、法律が憲法に違反しないかといった重要な問題を、最高裁判所の15人の裁判官全員で審理する法廷で、日本の裁判所の中で最も権威がある。そして、最高裁大法廷が、民法733条の再婚禁止期間の合憲・違憲を判断するのは、これが初めてなのだ。
問題となっているのは、民法733条が「女性にのみ」再婚禁止期間を設けている点だ。男女平等を定めた憲法14条に反するのではないかと批判されている。また、6カ月間という期間が長すぎるという指摘もある。そのようなことから、最高裁大法廷がついに違憲判断をするのではないか、という見方もある。
なぜ「再婚禁止期間」のルールがあるのか。その理由として「父親と子どもの関係をめぐる争いを未然に防ぐため」と説明されることが多い。だが、そもそも、なぜ女性の再婚を6カ月間禁じることが、「父親と子どもの関係をめぐる争いを未然に防ぐ」ことにつながるのだろうか。家族の法律問題にくわしい田中真由美弁護士に聞いた。
「女性の再婚禁止期間について考える前に、押さえておくべきルールがあります。
まず、妻が婚姻中に妊娠した子は、夫の子と推定されます(民法772条1項)。
また、結婚が成立した日から200日を過ぎてから生まれた子、もしくは結婚が解消、または取り消された日から300日以内に生まれた子は結婚期間中に妊娠したと推定されます(772条2項)」
田中弁護士はこう説明するが、なんだかややこしい話だ。もう少し、かみくだいて説明してもらおう。
「条文だとわかりづらいですが、このルールをまとめると、次のようになります。
(1)結婚中に妻が妊娠した場合は、夫の子と推定される。
(2)離婚成立から300日以内に生まれた子は、離婚した夫の子と推定される。
(3)再婚成立から200日を経過した後に生まれた子は、再婚した夫の子と推定される。
誰が父親か分からない状況が長引けば、生まれた子どもにとって不利益です。父子関係を早く確定するため、民法772条にはこうしたルールが設けられています」
つまり、生まれてきた子が「誰の子」なのか、とりあえず法律で推定しておこうというわけだ。法律用語で「嫡出推定」と呼ばれるルールだ。これが、いま問題なっている「再婚禁止期間」とどう関係するのだろう。
「仮に、女性が離婚した直後に再婚し、200日を経過した時点で子どもが生まれたとしましょう。すると、生まれてきた子どもは(2)と(3)の両方に当てはまります。
つまり、『離婚した夫』と『再婚した夫』の両方との父子関係が、推定されてしまいます。そこで、こうした『推定期間の重なりあい』を防ぐために、女性の再婚禁止期間が設けられました。
計算上は、女性が離婚後100日間、別の男性と再婚しなければ、推定は重なりません。民法はもう少し幅を持たせて、6カ月間としたわけです」
すると、再婚禁止のルールは必要なのだろうか?
「再婚禁止期間の規定は,結婚している男女しか性交渉をしないことが前提になっています。現実的には婚前交渉は珍しくありません。また、そのうち離婚するような夫婦が性交渉をすることは、一般的には考えにくいかもしれません。その意味で、非現実的な規定と言えます。
また、いまはDNA鑑定など科学技術の発達により、親子関係の確定は容易にできるようになりました。父子関係を法律で『推定』する必要性は、大きく減退しています。
女性だけが、6カ月もの期間、再婚できないのは、女性に対する不合理な差別と言うべきです」
田中弁護士はこのように述べていた。女性の再婚禁止期間について、最高裁大法廷がどのような決断をくだすのか、注目が集まっている。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
田中 真由美(たなか・まゆみ)弁護士
あおば法律事務所共同代表弁護士。熊本県弁護士会所属。「親しみやすい町医者のような弁護士でありたい」がモットー。熊本県弁護士会副会長。得意分野は離婚、家事全般、債務、刑事事件、少年事件。
事務所名:あおば法律事務所
事務所URL:http://www.aoba-kumamoto.jp/