2015年のF1開幕戦オーストラリアGPが終了いたしました。終わってみれば、やはりメルセデスAMGの圧勝。昨年の大方のレースのリプレイを見ているようにすら感じました。では、彼らが実際にはどれだけ速かったのか、そして他に注目すべきチームについて、決勝のペースからその勢力図を分析してみることにしましょう。
レース序盤、セーフティカー明けのメルセデスAMGふたりのペースは、3番手を走っていたウイリアムズのフェリペ・マッサよりも、1周あたり約1秒速いものでした。これはマッサがピットインするまで続きます。マッサがピットに入ったのは21周目終了時点。この段階で先頭とマッサの差は、15秒もついてしまっていました。
メルセデスAMGのペースは非常に安定していて、ソフトタイヤでも、ミディアムタイヤでも、デグラデーション(タイヤの性能劣化)を感じさせる傾向は見当たりません。しかもルイス・ハミルトンとニコ・ロズベルグのペースは終始ほぼ一緒。これは、ハミルトンにはまだまだ余裕があり、ロズベルグのペースに合わせる形で自らのペースをコントロールしていたように見えます。ハミルトンは、最終的なタイム差(1.360秒)以上に完勝だったと言うことができそうで、まだまだポテンシャルを隠し持っているかもしれません。
なお、これはタラレバですが、スタートでフェラーリのセバスチャン・ベッテルがマッサの前に出ていたら、状況は少しは変わったかもしれません。
ベッテルはスタートからマッサ最初のピットインまで、ずっとマッサの後ろに押さえ込まれていました。序盤は0.7秒差程度の差で接近していましたが、抜けないと見るや、11周目あたりからペースを落とし、マッサの後方1.5秒あたりの位置に控えます。しかし、マッサがピットインして前方が開けた途端、ベッテルは急激にペースを上げるのです。この時のペースは、前を行くメルセデスAMGの2台とほぼ互角。もし仮に、マッサに抑えられることがなければ、メルセデスAMGを少しは苦しめることができたかもしれません。
なおベッテルのミディアムタイヤ装着時のペースは、メルセデスAMG勢より約1秒遅いものでした。しかしこれは、悲観するものではないと思います。おそらく、ウイリアムズに合わせてペースをコントロールしていたのでしょう。ベッテルがウイリアムズの前に出た時点で、メルセデスAMGのふたりはすでに遥か前方。これを追うのはリスクが高すぎる。今回は3位をしっかりと確保しよう……チームがそう考えても、決しておかしくないと思います。現に、レース終盤にマッサがペースを上げるのと、それに合わせてベッテルもペースアップ。しっかりと差をキープしたまま、チェッカーフラッグを受けています。
マッサはレース後、「ピットアウト直後にダニエル・リカルド(レッドブル)につかまり、タイムをロスした」と語っていますが、これが無くても、フェラーリの前でフィニッシュするのは難しかっただろうと思われます。メルセデスAMGが現状もっとも速いとして、その後ろは2番手がフェラーリ、3番手がウイリアムズと、明確な順位が付いているように見えました。
ところで、ベッテルのチームメイトであるキミ・ライコネンは、2ストップ作戦を選択しました。これはおそらく、レース中に戦略を変更したのだと思われます。スタート直後にトロロッソのカルロス・サインツJr.と接触し、大きく順位を落としてしまったライコネン。そのため、フェリペ・ナスル(ザウバー)、ダニエル・リカルド(レッドブル)、サインツJr.の後方に、しばらく閉じ込められることになります。サインツJr.はなんとかコース上で交わすことができたものの、ナスルとリカルドはなかなか抜けない……“ならば先にピットインしてアンダーカットを狙おう”ということなのでしょう。しかし、タイヤ交換に手間取ったことで、この作戦もあまり効果的にはなりませんでした。ただ、タイヤを交換した後のライコネンのペースは、メルセデスAMGに匹敵する内容で、これも今季のフェラーリの速さを裏付けるデータのひとつになりそうです。
後方の集団にも、目を転じてみましょう。今回驚きだったのは、トロロッソとザウバーのポテンシャルの高さです。
前述の3強からは大きく大きく離されているものの、特にザウバーのナスルは、レッドブルのリカルドを完全に凌駕しました。しかもナスルはこれがF1デビューレースなのです。トロロッソのサインツJr.と17歳の新人マックス・フェルスタッペンも、デビュー戦にも関わらずレッドブルと真っ向勝負を繰り広げています。フェルスタッペンがトラブルで止まってしまったのは残念ですが、それでも、新人ふたりのポテンシャルを垣間見せたレースだったと言えるのではないでしょうか。
1周目に全滅してしまったロータスの評価は次戦以降にするとして(フリー走行と予選を見る限り、トップ3に次ぐ位置にいるように思われますが……)、ザウバーとトロロッソ、そしてレッドブルが同一の集団にいそうです。その中でも、今回の決勝レースのペースを見る限り、ザウバーが一歩抜け出している印象。特に16~25周目のナスルのペースは、リカルドよりも毎周1秒ずつ速いものでした。リカルドはザウバーに、ついていくことができなかったのです。ザウバーの速さを讃えるのはもちろんですが、その反面レッドブルの深刻度合いを象徴する事象でもありました。
フォース・インディアはレースペースが遅く、本来ならばライバルと戦うのは難しいポジションにいると思われます。しかし、他のチームとは違う作戦(2台とも、レース後半にソフトタイヤを履いていました)、多くのライバルがリタイア、そしてエリクソンの3ストップ+サインツJr.のピットストップ時のミス……などが重なり、しかも最後までしっかりと走り切ることができたため、7位と10位という順位を確保できたに過ぎません。今後全体の完走率が上がってくれば、入賞争いに加わるのはかなり厳しくなるはずです。
最後にマクラーレン・ホンダですが、多くのデータを取得できたという意味では、ジェンソン・バトンが完走できたのは好材料でしょう。また、最終ラップに1分33秒338を記録していますが、これは当時のザウバーやトロロッソ、レッドブルらと同じペースでした。この時のペースを持続させるのは現段階で難しいのでしょうが、それでも、将来に向けて少し明るい兆しと言うことができそうです。
開幕戦で見えた今季のおおまかな勢力図は、メルセデスAMG、フェラーリ、ウイリアムズが3強を形成し、その後方にはザウバー、トロロッソ、レッドブルの第2集団(ロータスもここに加わってくるはず)がつけ、フォース・インディア、そしてマクラーレン・ホンダがいるという形でしょう。この勢力図は、シーズン後半ではどんな形に変化しているでしょうか? まずは次のマレーシアGPでの変化に注目したいところです。セパンは灼熱の地であるとともに、メルボルンよりも空力性能が要求されるサーキット。ここでの走行を見れば、今季の勢力図をよりハッキリと見ることができるでしょう。