レースが終了すると、リタイアしたドライバーも含め、完走したドライバーは表彰式に出席する3人を除いて、全員がパルクフェルメから各国のテレビクルーが待ち受けているミックスゾーンに直行なければならない規則が、F1にはある。
開幕戦オーストラリアGP、日曜日の決勝レースが終了した直後のアルバートパーク・サーキットのパドックに設置されたミックスゾーンへ最初に現れたのは、スタート前のレコノサンスラップでリタイアしたケビン・マグヌッセンとダニール・クビアトだった。そして、最後にやってきたのが、11位で完走したジェンソン・バトンである。
「もう少しで入賞できたのにと思う人もいるかもしれないけど、いまの僕たちに棚ぼたのポイントは何の意味も持たない。本当にコンペティティブになるために、やるべきことがたくさんあるからね」と、バトンは順位にまったく満足していない。ただし、困難な状況で完走を果たしたことは評価していた。
「最後まで走り切ったことは大きな収穫。ここまで僕らが走った最長のスティントは12周。テストの状況を考えれば、ファンのみんなも完走できるなんて予想していなかったと思うから、私たちにとって大きな一歩であることに間違いない」
ホンダにとって7年ぶりのF1復帰戦は、トップから2周遅れの単独最下位に終わったが、バトンが周回を重ねた56周は自分たちとの戦いでもあった。信頼性の観点から、MGU-Kをフルパワーで使用しない選択を下したホンダにとって、ただでさえ燃費が厳しいアルバートパーク・サーキットでは、かなりチャレンジング燃費管理を強いられた。その状況下で、バトンはかつてのチームメートであるセルジオ・ペレスとバトルを展開した。そのバトルで、意外な発見もできたという。
「チェコ(ペレスの愛称)と戦っていたとき、向こうのマシンの挙動を観察していたんだけど、そんなに自分たちと変わらないっていうことがわかった。レッドブルやザウバーともそんなに違わないように見えた。彼らとバトルできるとは想像していなかったから、楽しかったよ」
そう言って笑うバトンを見ていると、バトンだけレーシングスーツではなく、すでに私服に着替えていることに気がついた。おそらく汗びっしょりになるくらい疲れ果て、レーシングスーツを着替えにマクラーレンのチームハウスへ行ってから、ミックスゾーンに戻ってきたのだろう。それほど、バトンにとって、この日のレースは長い長い56周だったのかもしれない。
その56周目に叩き出した1分33秒338の自己ベスト。29周走ったミディアムタイヤで記録したタイムとしては、ダニエル・リカルドやカルロス・サインツJr.と比べても遜色ない。これはマクラーレン・ホンダMP4-30のポテンシャルもさることながら、バトンのドライビングテクニックに因るところが多かったと言っていいだろう。
かつてホンダでの最後のレースとなった2008年最終戦ブラジルGPで13位に終わったバトン。7年ぶりの復帰戦は11位。決して満足できる状況ではないが、現実的なスタートラインとしては悪くない出来だったと思う。
(尾張正博)