新生マクラーレン・ホンダの復帰初戦は、光明がわずかに見えたという厳しい結果となった。予選17位のジェンソン・バトンが11位で完走してひとまずの目標を達成したもののトップとは2周遅れで、完走した中では最下位。予選18位のケビン・マグヌッセンに至ってはスターティンググリッドに付くアウトラップで白煙が上がり、レース前にリタイアという状況になってしまった。「やることが山積み」「残念だったのは挙げたらキリがない」というホンダの新井康久F1総責任者が、この開幕戦を振り返った。
最下位というスターティンググリッドで臨む決勝。マグヌッセンのクルマはレコノサンスラップで薄い白煙を上げて、コース上にマシンを止めた。原因は今の状況では分かっていないが、メカニカルなトラブルであることは間違いない。
「たぶん、(フェルナンド・アロンドの替わりに参戦した)今季のケビンの数少ないレースだったと思いますが、彼には非常に申し訳ないことをした。我々も、あそこでエンジンが不調になってしまって、これから原因を究明していかないといけない」と、まずはドライバーに謝罪する新井氏。
予選後から決勝にかけて、マグヌッセンのクルマはFIAのテクニカルデリゲートに申請を行って点火プラグとイグニッションコイルを交換しているが、それが原因ではないと言う。
「その影響は全然ないと思います。ケビンのクルマはまだカバーが掛かって何も開けていないので何が起きたか今は分からないですが、映像からもエンジンが何か不調になったのは確か。ケビンもパワーダウンと言っていました。これから(エンジンを)降ろすか、そのままファクトリーに持って行ってからバラすか、今、チームと相談しているところです」
一方のバトンは完走を果たしたが、そのレース内容としてはトップのメルセデスからは3.5~4秒近く遅いラップタイムで走らねばならず、前のクルマとも1周遅れとなってしまった。
「やはり燃費は厳しいですよね。昨日、一昨日もそうですけど出力が出ていない、というか出せないような設定になっている。同じ燃料量で走っていたら、それだけ燃費が悪いということとイコールなので、ほとんどセーブモードのような感じで今日は走っていました。いくつかのコーナーでライバルに対して速いコーナリングスピードだったところもありましたけど、全体で言うとジェンソンが本当に頑張ったと思います」
熱の影響でモーターによりハイブリッドパワー、MGU-Kの120kWのエネルギー(約160馬力)が使用できていないのではないかと推測されるが、新井氏はそれを否定する。
「MGU-Kは使っていますけど、たとえばフルパワーのMGUーKを使えば、またリチャージするしかないということになってしまうので、エネルギー的にはプラマイゼロになるようなセッティングで走っていました。それよりも燃料の量を抑えるとか、コーストする(惰性で進む)とか、そういうドライバーのテクニックで頑張ってもらって、彼も完走することを目的にしてやってくれたと思います。本当に頭が下がります」。新井氏は素直にバトンに感謝を述べた。
ポイント圏内まであとひとつとも言える11位、それでも走行した中では最下位。この開幕戦の結果に当然、新井氏は満足していない。
「たとえば今日10位になったとして、笑えと言えば笑えますけど、それはちょっと難しいですよね。そこが目標ではない。バトルができるところまで持っていかないと、我々もF1にサプライヤーとして出て行く意味がない」
レース終盤には燃費の目処が立ったところでバトンがプッシュ。最終周に1分33秒338の自己ベストタイムをマークした。同じ周のトップのルイス・ハミルトンとは1.7秒差があるが、中位を争える速さは最後に見せることができた。それでも、新井氏の見方は厳しい。
「少なくとも(トップの)相手のレベルまで行かないと。それはどのくらい(タイムが)行くかではなくて、どのくらい行かないとレースにならないかということですから、そこを目標にやるしかないと思っています。昨日の予選の結果で言うと、あれだけの差(Q1はトップと2.9秒差)ではレースを成立させようと思ってもできないですよね。(パルクフェルメ規定でクルマを触れず)そのまま、今日は臨むしかなかった」
F1復帰を発表してから2年弱。長くて短かかった開発期間を終えて、ついに迎えた開幕戦。その初戦を終えて、新井氏が最後にまとめた。
「大変疲れました。今日の、というよりも、第1戦を迎えて非常にタフな週末であったことはたしかです。唯一良かったことは、ジェンソンが完走できたこと。本当に小さなステップですけど、前に進むことはできたなと思っています。厳しいレースになるなというのは、分かってここに来ました。その中で完走できたというのが、唯一のよかった点。悪かったというか残念だったのは、挙げたらキリがないです。やることは山積み。準備不足で残念な結果になってしまいました。早く勝負できるように、もう一回やるしかない。この結果を真摯に受け止めて頑張りたいなと思います」
「今後、アプローチを変えるということは全くないです。信じている道をひと筋に行きます。それが、マクラーレンと決めたことなので。結果は付いてくると思います」
2週間後には、シーズンでもっとも高温多湿なマレーシアGPを迎える。熱害という課題に振り回された今回の開幕戦から、酷暑のマレーシア・セパンでどう立て直しを図るのか。次戦、早くもホンダF1が大きな山場を迎えることになる。