東京の移動時間の長さや満員電車は、新しい働き方議論のやり玉によく挙げられる。ブロガーのイケダハヤト氏も、ご多分にもれず2015年3月11日のブログで「移動時間の無駄に無頓着」な人は、仕事ができないと断言している。
この議論はブロガーのちきりん氏も、この1月に「通勤手当なんて廃止すべき」として賛否を呼んだ。果たして移動時間をかけている人は、「残念な人」と断罪されるほど「仕事ができない」のだろうか。
「営業職の場合とかってどーすんだろ」
千葉県在住の会社員(32)は、妻と子どもとの3人暮らしだ。毎朝1時間半かけて、都心のオフィスに通っている。行き帰り3時間の通勤時間に何をしているのかを聞いてみると、
「ずっと仕事してますよ。座れるので、パソコン開いて。中途半端に東京に住んで、立って通勤するよりも効率的に移動時間を使えていると思うのですが…」
ただ、こうした意見もイケダ氏にかかれば、「『移動しながら』という条件下においては、あらゆる作業の効率は落ちます」と批判されてしまうようだ。移動時間の無駄を「当然のもの」として考えてしまう人を、イケダ氏は「仕事ができない」と断罪している。
「毎日とてつもない無駄をしているというのに、そのことに驚くほど無頓着。諦めすら感じます」
「無駄を疑問視することをやめたとき、人の成長は格段に『遅く』なるんです。改善をやめちゃだめですよ」
イケダ氏の今回の意見には「これはわかる。その通り」「最近痛感している分、耳が痛い」と賛同する声も多い。毎日疑問に思いながら通勤している人も多いようだ。
ただ、全員がイケダ氏のように、ブログを書いて高知で生活できるわけではない。「出張行けないじゃん」「みんなそんな都合のいい仕事してないんでね」「営業職の場合とかどーすんだろ」といった声もあるとおり、移動が必須の仕事をしている人もいて世の中が成り立っている。
「いや、移動時間が全て悪いのではなく、その移動時間にペイする何かを得られるかどうかですよね? 移動コスト払った方がメールで100回やりとりするよりコスト安い場合もあります」
「在宅勤務」「職住近接」で解決するのか?
さらにイケダ氏は、本を読むなら電車内より「家で読書していた方が明らかに効率いい」と断言しているが、集中できる環境は人によって違う。冒頭の会社員は育児中のため、家で読書していると「必ず邪魔が入ってしまう」という。だから「移動時間は集中できるので貴重」なのだそうだ。こうした反論をしている人は多い。
「僕は電車の中が一番集中できるので、読書もできるし、英語習得も電車の中でやりました」
「知ってますか?アイデアは移動距離に比例する事だってあるんですよ?」
イケダ氏は結論として「在宅勤務」か「職住近接」をすすめている。在宅勤務OKの企業に転職サイトを使って転職するか、家賃の高い東京ではなく地方の企業に転職して職住近接を実現させることを提案している。
確かに、非常に多くの人が働くオフィス街の人たちが、全員「職住近接」できる住居など確保できるわけもない。とくに都心の希少な不動産は高額だから、収入に応じて職場から離れざるをえないのが現実だ。職場から遠くても、郊外の庭付き一戸建てを選びたい人もいる。いったん生活の基盤を首都圏で築いてしまったら、地方移住は難儀だという人もいるだろう。
また、セキュリティなどの制約から、まだ日本では「在宅勤務」ができる環境が整っているとはいいづらい。ヴイエムウェアが約2100人のビジネスパーソンを対象に行った調査では、7割の人がPCの社外持ち出しを「禁止されている」のだそうだ。個人所有端末を業務で利用できる割合(BYOD)も22%と、アジア太平洋地域12か国で最下位だ。
反論が容易に思いつく結論に、ネットには「なーんだ、そんな結論しか出せないんだ、という感じ。浅い」との声もある。実行が難しいという人が多いからこそ、現状があるわけで、読者はもっと画期的な提案を期待しているようだ。
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