2015年03月15日 12:51 弁護士ドットコム
「空飛ぶ無人機」として、空撮や輸送などさまざまなシーンでの活用が注目されている「ドローン」。テクノロジーの進歩による高性能化や低価格化に期待が集まる一方で、問題も起きている。フランス・パリでは、空中を縦横無尽に飛ぶドローンに、市民たちが神経を尖らせている。
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昨年10月には、原子力発電所や大統領官邸の上空にドローンが出現。その後も、2月23~25日の3日間にわたって、アメリカ大使館の近くや、オペラ座、エッフェル塔など主要な建物や観光名所の周辺を飛ぶドローンがあいついで目撃された。パリでは、1月に風刺新聞への銃撃事件が起きたばかりで、テロとの関連を疑う声が高まった。
そんな中、2月25日には、パリ西部のブローニュの森で夜間に無許可でドローンを飛ばしたとして、3人の男性がフランスの捜査当局によって逮捕された。報道によれば、3人は中東の衛星テレビ局「アルジャジーラ」の記者で、夜空を撮影するために取材していたと説明しているようだ。
ドローンは個人でも手軽に空撮ができるため、大規模な災害や事故の報道に活用できるのではないかという期待もある。現在の日本で、取材・報道のためにドローンを利用することは、法的に認められるのだろうか。IT関連の法律問題の伊藤雅浩弁護士に話を聞いた。
「ドローン利用に伴う法規制では、主に航空法とプライバシーが考えられます」
伊藤弁護士はそう指摘する。
「航空法との関係では、ドローンは模型航空機という扱いとなると考えられています。航空路の内か外かで違いがありますが、模型航空機は、航空路外の場合、250メートル未満の高さで飛行させることができます。ただし、空港やその周辺など、許可が必要な地域もあります。
報道目的でドローンを使用するという場合、それほど高い高度で飛ばすことはないと思いますので、航空法関係の規制が問題になることは少ないでしょう」
では、プライバシーの側面からはどう評価できるのだろうか。
「報道とプライバシーの関係ですが、空撮によって、これまで撮影されることのなかったプライバシー空間が撮影・公開され、プライバシー侵害が生じるという可能性が出てきます。
この問題を考える上で参考になるのが、グーグルのストリートビューに関して2012年に出された福岡高裁の裁判例です」
伊藤弁護士が指摘したのは、福岡市内に住む女性が、マンションのベランダに干していた洗濯物を同意なく撮影され、ストリートビューで世界中に公表されたのは不法行為にあたるとして、グーグルに損害賠償を求めた裁判のことだ。
「この裁判では、画像を見ても、洗濯物が干してあるかどうか明らかでないとしたうえで、一般公道の撮影においては、一定程度の私的事項が写りこむことは社会的に容認されているとして、違法性は認められませんでした。
しかし、福岡高裁は判決の中で、容ぼう以外の事項でも、その撮影・公表によってプライバシー侵害になり得るとも指摘しています。
ドローンを使用することで、よりリアルで迫真性のある映像を撮影することができるかもしれませんが、こうしたプライバシー侵害の問題にも配慮する必要があります」
報道利用で想定されるのは、噴火や洪水など、人による取材が困難となる危険な自然災害が主に考えられる。しかし、その対象が人や街中にも広がっていけば、プライバシー問題という難題が立ちはだかることになりそうだ。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
伊藤 雅浩(いとう・まさひろ)弁護士
工学修士(情報工学専攻)。アクセンチュア等の約8年間コンサルティング会社勤務を経て2008年弁護士登録。システム開発、ネットサービス等のIT関連法務を主に取り扱っている。経済産業省「電子商取引及び情報財取引等に関する準則」研究会メンバー。
事務所名:弁護士法人内田・鮫島法律事務所
事務所URL:http://www.uslf.jp/