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「未来の人が自由に上演できるように」平田オリザさんら「TPP知財交渉」に懸念

2015年03月14日 18:51  弁護士ドットコム

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「TPPの知的財産権と協議の透明化を考えるフォーラム」(thinkTPPIP)は3月13日、東京都内で記者会見を開いた。政府が交渉中の環太平洋連携協定(TPP)で、著作権を含む知的財産条項が近く妥結されるのではないかという見方が強まる中、各国の利害関係の大きい条項は妥結案から外すように求める緊急声明を発表した。


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thinkTPPIPは2月23日に声明案をインターネット上で公表し、賛同を呼びかけ、同日までに70団体・238名からの賛同を得た。記者会見には、声明に賛同した劇作家の平田オリザさんや漫画家の赤松健さんらが出席し、TPP交渉で調整が進んでいるといわれる、著作権の保護期間を現行の50年から70年に延長することや、著作権侵害があった場合、権利者の告訴がなくても検察が起訴できるようにする「非親告罪化」に対する懸念を訴えた。



はたして、どのような理由や背景で声明に賛同したのか。記者会見に出席した賛同者の発言を紹介する。(発言順、敬称略)



●「非親告罪化」の問題は劇作家にとって非常に脅威になる


平田オリザ(劇作家、日本劇作家協会副会長):一個人として、劇作家協会の代表として、この席に呼んでいただきました。



劇作家協会は、著作権の権利者団体ですが、初代の故・井上ひさし会長以来、伝統的に「保護期間延長」には反対しています。ここに至って、とくに「非親告罪化」の問題は劇作家にとっても非常に脅威になりますので、賛同団体として名を連ねさせていただきました。



私たちは(著作物が)70年後の孫やひ孫に小銭程度の利益をもたらすより、とにかく劇を上演をしていただきたい。そのためには、雑談レベルですが、(著作権保護期間は作者の)死後20年、30年後でもいいのではないかと話しています、要するに、女房には迷惑かけているけれど、孫の生活まで面倒をみるつもりはない。それが私たちの一般的な意見ではないか。



また、新しいメディアの誕生による問題もあります。たとえば、私は昨年、ジャン=ポール・サルトルの「出口なし」という作品を上演する予定でした。私が個人的にやりたいと思ったわけではなくて、ノルマンディー国際演劇祭から委嘱でやる準備が進められていました。



しかし、上演できませんでした。理由は、主人公をロボットで上演したいという計画だったからです。サルトルのいち遺族からの反対で上演できなくなりました。サルトルが、自作をロボットが上演することは予想していなかったと思います。フランスの演劇祭でも大きな問題となりました。



新しいメディア、新しい科学技術が生まれたときに、その上演が明らかに人類の進歩、あるいは芸術文化の発展に寄与するものにもかかわらず、いち遺族の意思で否定していいものかどうか。私たちには50年後、70年後にメディアがどうなっているか、まったく予想がつきません。



政治的なネゴシエーション(交渉)の中でそんなことを決める権利が、今の人間にあるのかどうか、ぜひ慎重に考えていただきたいと思っています。私たち劇作家は、未来の、地球の裏側の人々に自由に上演してもらうために作品を作っています。ぜひ、この権利こそ守りたいと思っています。



●協議が透明化されていない


赤松健(漫画家、Jコミ代表取締役):ちょうど昨日(3月12日)、共同通信から「非親告罪化を義務付けず」みたいな記事が出たんですけど、さきほど、内閣府の西村康稔副大臣に聞いたら「誤報」だと。我々はいつもこういうので、右往左往させられている。これも何もかも、透明化されてないからですよね。



実は、私の立場は微妙です。手塚治虫先生が亡くなったのは1989年で、手塚作品の著作権は2039年に切れてしまう。私は日本漫画協会の理事なんですけど、ちょっと許せないなってのがあります。「伸びればいいな」という大御所先生もいるんですけど、ほとんどの場合は孤児著作物が増えるだけです。



どちらにしろ、協議の透明化を考えるということでしたら、我々は大賛成です。漫画家として、非親告罪化に関しても非常に憂慮していますし、おおむね支援させていただきたいと考えています。



●活発な議論から一番適切な解決方法を


甲斐顕一(株式会社ドワンゴ会長室室長):ドワンゴは「ニコニコ動画」という動画サイトを運営し、二次創作の育成・擁護を大きなテーマとして掲げてまいりました。



一次創作者と二次創作者の信頼関係に基づいて、それを発展して成立するものです。そこに公が関与してきたときに一体どうなんだろうという懸念を持っています。



それに対する情報があまりにもなさすぎて、我々はどう反応していいのかわからない。あるいは、どう解決していくのかよくわからないというのが、現状だと思っています。



こういう場をきっかけとして、いろんな議論が活発になって、「そもそも、こういう問題があるんだ」「いや、こうだ」という議論の中から、一番適切な解決方法ができることを期待して、この場に参加しました。



●本来経済の枠内に収まるものではない


大久保ゆう(青空文庫):青空文庫はパブリックドメイン、すなわち社会の共有物となった著作物を集めて、公開する活動を行っています。青空文庫の利用者は、国内のみならず海外、いわゆる在外邦人の方々やそのお子さんたち、海外で日本のことを研究しようとしていらっしゃる方々、日本のことが大好きで読んだり訳したりしている方々、そういった方々にとって、大変貴重な読書リソースとなっています。



つまり、青空文庫という本棚というものは、世界のどこにいても、どなたであってもインターネットにさえ繋がれば、端末から日本語の豊かな世界に繋がることができる。そういうものであるわけです。それがあるのも、共有財産があってこそです。



共有財産が増えるのは、国益を増すことはあっても、減らすことはないと考えています。パブリックドメインをはじめとする文化を共有するということ、それを保障するあり方というのはインターネットがあらわれて、初めて実効性をもつ仕組みとして機能し、それから簡便な電子端末がでてきてようやく、その益をひろく享受することができるものとなりはじめていると思います。



そういうことを考えると、どうしてそういったことに水を差すようなマネをするのか。むしろTPPは文化の面においては、国益を減じるものではないかとすら、現場にいるものとしては感じてなりません。



共同声明にある憂慮については、もちろん同意するところがありますし、また、2013年に亡くなった富田倫生(「青空文庫」呼びかけ人の一人)が申していたように、TPPの枠内で扱われようとしている表現の自由と、その拡散・保存・参照の機会の確保の問題は、本来経済の枠内に収まるようなものではないと思っています。



経済を超えた要素を含む問題を、経済の枠内で扱おうとしている。そういうことについて、私たちは非常に憂慮しています。



●保たれている均衡が危うくなる


田村善之(北海道大学大学院法学研究科教授):今、日本の著作権法の最大の問題点は、みなさんが「著作権の規制はこの程度だ」と思っていることと、著作権の条文が非常に違っているということです。条文上、一般的に企業内複製は許されていないんです。



そういたしますと、信じられないことに、出張のたびにPDFファイルにするとか、PDFを送信するとか、あるいはネット情報をコピペして企業にメールで送るとか、そういったものが全部、著作の条文を真剣に守ると違法になります。



もし完全に日本が著作権法の条文を守ると、日本経済が停滞するのは明らかなんです。なぜそれがまわっているのかというと、結局、常識的に権利が行使されないから。著作権がまともにきちんと行使されないからこそ、何とか均衡を保っているということがあります。



今回のTPPで、漏れ聞く情報によりますと、その均衡を崩すような政策が盛り込まれるかもしれない、ということです。一番大きいのは、やはり親告罪が非親告罪化することです。



権利者が寛容的態度をとっていたとしても、官権で事件として取り上げるという権限が発生します。おそらく、「そんなこといっても日本の官権はそんなバカなことしないだろう」「大体それで収まるような話だ」と言われることもあるのですが、一番私が重要視しているのが人々の意識の問題です。



寛容的利用でなんとかまわっているのは、みなが使おうとするからです。みなが条文を守ったり、小学校・中学校あたりから著作権教育をやって、「もう他人のものは盗んではいけない」「著作も同じだよ」と教えると何もできなくなっていく。そうなると、保たれてる均衡が危うくなります。孤児著作物の問題、あるいは同人の問題と全て共通する問題だと思います。



●日本は創造力、クリエイティビティで食っていくしかない


中村伊知哉(慶應義塾大学メディアデザイン研究科教授):私は政府の知財本部の座長を務めていますので、中立でなければいけません。立場が微妙なんですけれども、TPPの決着次第では、「じゃあ国内の法制度どうするのか」といった対策を講じる必要が出てきます。



いずれにしても、知財、著作権が日本の未来にとって重要なテーマで、今非常に重大な局面にあるという認識を高めるために参加しました。過去、知財本部でも、著作権の問題は何度も繰り返し議論をしてきて、その結果、日本は権利者とユーザーのバランスがとれた環境になっていると認識しているのですけど、TPPという外部要因でこれを崩すということは避けたいです。



もし仮にそうなるとすると、「じゃあ国内制度でカバーできるのか」といった議論を高めていかなければならなくなります。しかし、この重要性がまだ国民に十分に共有されていないのではないか。国民全体が関わるテーマであって、国民全体で考えていかなければいけません。日本はこれから創造力、クリエイティビティで食っていくしかないんです。知財という問題が最重要のテーマであると強調しておきたいと思います。


(弁護士ドットコムニュース)