2015年03月12日 15:21 弁護士ドットコム
「イスラム」という単語が入った名義の口座を開設しようとしたら断られた――。そんな信用金庫の対応が新聞で報じられ、議論を呼んでいる。
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報道によると、静岡県御殿場市に住む男性が2月下旬、自ら立ち上げた任意団体「日本イスラーム圏友好協会」の名義で沼津信金に口座を開設しようと、市内の支店に電話で相談したところ、職員から「イスラムという名前が入った団体では口座は開けない」と言われたという。
報道に対して、沼津信金はウェブサイトで、団体名に「イスラム」が含まれていることを理由に口座開設を拒否したわけではないと主張。「電話における当金庫とまったく取引のないお客様からのお申し込みであったこと」や「電話でのやり取りにおいて、お客様の口座開設の目的を十分に把握できなかったこと」が、口座開設を断った理由だと説明している。
このように、報道と信金の言い分は一部で異なっているようだが、一般論として、信金や銀行が「特定の名称を使っている」という理由で口座開設を拒むことは許されるのだろうか。金融取引にくわしい高島秀行弁護士に聞いた。
「金融機関に口座を開設するということは、申込者と金融機関との間で契約を結ぶことです。契約を結ぶかどうかは、原則として当事者が自由に決めることができます。これを『契約自由の原則』といいます。
しかし、信金や銀行は、社会にとって不可欠な公共的な機関です。合理的な理由がない場合は、口座開設を拒否できないでしょう」
合理的な理由とは、どんなケースだろう?
「金融機関には、テロや犯罪に関する預金取引かどうかを確認し、疑わしいときには行政庁に届出する義務があります。
こうした義務は、犯罪収益移転防止法、テロ資金提供処罰法、組織的犯罪処罰法、麻薬特例法などに定められています。
これらの法律に照らして、違法な取引を目的としているという疑いがある場合は、預金口座開設などを拒否できると考えます」
では、名称を理由にして拒否することは「合理的理由」があるといえるだろうか。
「仮に今回のケースで、一部報道にあるように、信金側が『イスラム』という名称が含まれていたことを理由に口座開設を拒否したとしましょう。
『イスラム』という単語から、テロ組織との関係を疑うというのであれば、国家公安委員会等に照会をするなどして、回答を得てから対応すべきだと思います。
そうした事実確認をせずに、単に『イスラム』という名前を見て、漫然と口座開設を拒否するというのであれば、合理的理由があるとはいえません。拒否することが許されない可能性があります」
高島弁護士はこのように述べていた。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
高島 秀行(たかしま・ひでゆき)弁護士
「ビジネス弁護士2011」(日経BP社)にも掲載され、「企業のための民暴撃退マニュアル」「訴えられたらどうする」「相続遺産分割する前に読む本」(以上、税務経理協会)等の著作がある。ブログ「資産を守り残す法律」を連載中。http://takashimalawoffice.blog.fc2.com/
事務所名:高島総合法律事務所
事務所URL:http://www.takashimalaw.com