2015年03月12日 11:21 弁護士ドットコム
ようやく言い渡すことができた「判決」だったーー。さいたま地裁は3月9日、ひき逃げ死亡事件を起こした元タクシー運転手の被告人(64)に、懲役1年8月の実刑判決(求刑3年)を言い渡した。昨年9月、客をのせたタクシーで70代の男性をひいたうえ、そのまま逃走したとして、自動車運転処罰法違反(過失致死)と道交法違反(ひき逃げ)の罪で在宅起訴されていた。
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関係者たちはホッと胸をなでおろしたことだろう。この被告人は、昨年12月の初公判と2月6日、2月27日の3回の公判期日に出廷せず、公判の延期が繰り返されてきたからだ。弁護人とも連絡がつかず、行方不明になっていたという。
それが3月2日になって突然、大阪府住之江署に1人で出頭したのだ。被告人は「人生がいやになった。自殺しようと思ったが死に切れず出頭した」などと話していたという。翌3日、さいたま地裁は、被告人の「勾留」を決定。その6日後に、ようやく判決言い渡しが実現したわけだ。
今回のケースのように、在宅起訴された被告人が公判に出廷しない場合、罪に問われることはないのだろうか。藤本尚道弁護士に聞いた。
「刑事事件の被告人が正当な理由なく公判期日に出頭しなかったとしても、何らかの罪に問われるわけではありません。これに対し、証人の場合は、召喚を受けたのに正当な理由なく出頭しなければ、過料や刑罰(罰金または拘留)に処せられることがあります」
藤本弁護士は最初にそう語った。
「被告人が公判期日に出頭しなければ、原則として、公判を開廷することができません。
勾留中の被告人が正当な理由なく出頭を拒否したような場合は、被告人が出廷しなくとも公判手続を実施することができますが、それはあくまでも例外的な措置です。本件のように身柄拘束されていなかった被告人の場合は、適用されません」
では、保釈された被告人の場合はどうか?
「被告人が起訴後に保釈された場合であれば、正当な理由のない『不出頭』は、保釈取消の理由となります。あらためて身柄拘束(勾留)され、保釈保証金も没取されることになりえます」
今回、被告人は3月3日に勾留されるまでは、在宅起訴の状態だった。3回も出廷しなかったわけだが、途中でどんな対応がとりえたのだろうか。
「在宅起訴された被告人については、正当な理由なく出頭しなければ、勾引(こういん)状と呼ばれる令状により、身柄を拘束することが可能です。
勾引状の有効期間は24時間と短いですが、1回の公判のためだけなら、それでも十分でしょう。さらに公判期日を重ねる場合は、これまでの不出頭の『実績』に照らし、逃亡を疑う相当の理由ありとして、勾留することも可能です」
大阪府警に出頭後、すみやかに勾留となったのは、まさしく「実績」があったからといえる。では、公判に出頭しなかったことで、起訴された犯罪の刑が重くなることはあるのか。
「裁判官も『人の子』です。正当な理由なく公判の不出頭を繰り返す被告人に対しては、『反省の色なし』との判断から、ある程度、量刑判断が厳しくなることもないとは言えないでしょう」
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
藤本 尚道(ふじもと・まさみち)弁護士
兵庫県弁護士会所属。神戸大学法学部卒業。弁護士会会務では主に広報畑を歩んできた。現職は、兵庫県弁護士会広報委員会委員長、近畿弁護士会連合会広報委員会副委員長、兵庫県弁護士協同組合理事長など。
事務所名:藤本尚道法律事務所
事務所URL:http://www.lawyer-kobe.com/bengoshi/