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アメリカでは年収280万円でも「残業代ゼロ」に――日弁連が現地調査の結果を報告

2015年03月07日 11:21  弁護士ドットコム

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国会で審議されている「高度プロフェッショナル労働制」(別名・残業代ゼロ法案)について、日弁連は3月4日、類似制度をすでに導入しているアメリカで「聞き取り調査」をおこなった結果を報告するセミナーを開いた。調査メンバーの中村和雄弁護士は「制度を導入すれば、労働時間が長くなることを確信した」と指摘した。


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●ニューヨークなど4カ所で「聞き取り調査」を実施


政府が新しい労働のルールとして導入を目指している「高度プロフェッショナル労働制」は、対象となった労働者について、時間外労働や割増し残業代などの「労働時間規制」から除外する制度。「残業代ゼロ」の対象となるのは、一定の収入要件を満たす、高度な能力を持つ専門労働者に限るとされている。



アメリカでは以前から「ホワイトカラー・エグゼンプション」と呼ばれる、類似の制度が導入されている。日弁連の視察は、今年1月27日から2月1日にかけて実施された。ニューヨーク、ワシントン、ロサンゼルス、サンフランシスコの4カ所で、労働組合や弁護士、米労働省などに聞き取り調査をおこなったという。



「高度プロフェッショナル労働制」に賛成する論者の中には、新制度の導入によって対象者の長時間労働が減るはずだという意見がある。しかし、ニューヨークとワシントンで調査をした三浦直子弁護士は「アメリカでは、ホワイトカラー・エグゼンプション制度の対象者のほうが、非対象者よりも労働時間が長くなっていた」として、こうした主張に疑問を呈する。



●ホワイトカラー・エグゼンプションは「どんどん拡大」


アメリカのホワイトカラー・エグゼンプション制度も、当初は対象者が限定されていたが、どんどん拡大されてきた歴史があるという。



現在の対象は、管理職や運営職、専門職などで、週455ドル以上の賃金が支払われる場合に限られているが、これは年収換算すると約280万円にすぎないという。



また、制度が適用されるかどうかが非常にわかりにくいルールになってしまっており、「上司から『あなたは制度の対象者だ』と言われて、そのまま受け入れてしまうケースが多いようだ。日本でも、同様のことが起きる可能性がある」と、三浦弁護士は指摘する。



同制度が適用されるかどうかをめぐる訴訟もかなり起きていて、現在アメリカでは「働いた分の賃金が出ることが当然だ」として、適用要件を見直す流れになってきているそうだ。



●「アメリカの実態」を知ったうえで「制度改正」の議論を


調査に参加した塩見卓也弁護士は「高度プロフェッショナル労働制」をめぐり、日本では「あまりにも労働者の意見を反映しない議論が続いている」と指摘。「アメリカの制度実態を明らかにしたうえで、労働法制審議に反映させなければならないという問題意識から調査をおこなった」と、調査のねらいを話していた。



(弁護士ドットコムニュース)