2015年03月06日 12:41 弁護士ドットコム
大阪府警の取り調べで精神的苦痛を受けたとして、元小学校校長の男性(81)が2月24日、大阪府に200万円の賠償を求めて提訴した。男性は昨年7月に傷害罪で在宅起訴されたが、今年2月上旬、大阪地裁堺支部で無罪判決を受けた。その捜査の過程で、違法な取り調べがあったと主張しているのだ。
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報道によると、男性は知人男性を殴ったとの容疑をかけられ、2013年9~11月に5度にわたり、大阪府警西堺署から任意で事情聴取を受けた。その際、刑事課に所属する当時20代の男性巡査長に「答えろ、答えろ、これは命令や」「やりましたって、一言いうたらそれで済む」などと執拗に自白を強要されたという。
その一部はICレコーダーで録音されており、男性巡査長の「あんまり言うと自白の強要になるな」という発言もおさめられていた。また、刑事訴訟法で捜査側に義務づけられている「黙秘権の告知」もなかったと、男性は訴えているという。
ここで問題になっている黙秘権の告知とは、どんな制度なのか。もし告知しないと、どうなるのか。元検事で、刑事事件にくわしい荒木樹弁護士に聞いた。
「黙秘権は、捜査機関から被疑者に対する『不当な人権侵害』を防ぐための権利といえます」
荒木弁護士はこのように切り出した。具体的には、どういうことだろう。
「憲法38条は『何人も、自己に不利益な供述を強要されない』と規定しています。これを受けて、刑事訴訟法198条では、取り調べにあたり『あらかじめ、自己の意思に反して供述をする必要がない旨を告げなければならない』と定めています。
また、公判においても、裁判長は『被告人に対し、終始沈黙し、又は個々の質問に対し陳述を拒むことができる』旨を告げなければならないと定めています(刑事訴訟法291条)。これらの規定による被疑者・被告人の権利を包括して、黙秘権と理解されています」
「答えたくなければ、質問に答えなくてもいい」という被疑者や被告人の権利が「黙秘権」であり、その権利を告げることが「黙秘権の告知」である。
では、黙秘権の告知がなかった取り調べは、証拠として有効なのだろうか。
「先に説明したように、刑事訴訟法198条により、警察官は取り調べにあたって黙秘権を告知する義務があります。これを怠れば、違法な取り調べとされ、供述が証拠として利用されない場合があります」
また、男性は「やりましたって、一言いうたらそれで済む」などと執拗に責められ、警察官から自白を強要されたとも主張している。
「自白の強要は、違法・不当な取り調べにあたる可能性があります。ただ、捜査機関が被疑者を取り調べることは、刑事訴訟法の目的である『事案の真相の解明』のために、当然必要な捜査活動でもあります。
したがって、黙秘権を告知したのであれば、その後、被疑者を説得して取り調べをすること自体は違法ではありません。
取り調べにあたる警察官は、被疑者に『黙っていても良い』と言いながら、一方で『本当のことを言え』と一見矛盾する言動をします。捜査の難しさが現れる場面とも言えるでしょう」
取り調べ室の攻防戦で鍵を握る「黙秘権」だが、告知がなければ、ただの不当な権力行使と言うほかないだろう。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
荒木 樹(あらき・たつる)弁護士
釧路弁護士会所属。1999年検事任官、東京地検、札幌地検等の勤務を経て、2010年退官。出身地である北海道帯広市で荒木法律事務所を開設し、民事・刑事を問わず、地元の事件を中心に取扱っている。
事務所名:荒木法律事務所
事務所URL:http://obihiro-law.jimdo.com