2015年03月03日 15:31 弁護士ドットコム
29年前の事件で国際指名手配されていた「日本赤軍」メンバーの男性(67)が2月中旬、警視庁に逮捕された。男性は1986年5月、インドネシアの首都ジャカルタの日本大使館に爆発物が撃ち込まれた「ジャカルタ事件」に関与したとして、殺人未遂と現住建造物等放火未遂の疑いが持たれている。
【関連記事:もし痴漢に間違われたら「駅事務室には行くな」 弁護士が教える実践的「防御法」】
ジャカルタ事件ではアメリカ大使館も攻撃されたが、この男性は1998年に米国の裁判で、アメリカ大使館を砲撃したとして禁錮30年の有罪判決を受け、服役していた。しかし模範囚だったとして刑期が短縮され、今年1月に釈放。その後、米国から強制退去処分を受け、日本に帰国したところを逮捕された。
このニュースを受け、ネット上では「まだ時効になっていなかったのか」と、驚きの声があがった。刑事事件には「時効」があるというが、約30年前の事件でも、時効にならないのだろうか。刑事手続きにくわしい神尾尊礼弁護士に聞いた。
「刑事手続きにおける時効は、正確には『公訴時効』と呼ばれる制度です。近年『殺人罪の時効がなくなった』と話題になりましたが、この『時効』というのが公訴時効のことです」
公訴時効は、どういう仕組みなのだろうか?
「簡単に言うと、公訴時効は、事件から一定期間がたつと、処罰されなくなる制度のことです。
公訴時効になると、検察官が、被疑者を起訴することができなくなります。
また、時効が完成しているのに誤って起訴されたような場合は、『免訴』という特殊な判決が出ます。これは、有罪・無罪の判断をせずに、裁判を打ち切る手続きのことです」
なぜ、そんな制度があるのだろうか。
「時効制度の存在理由には、議論があります。
時間がたつと処罰感情等が薄まるため、あるいは、証拠等が散逸してしまって適正な裁判が難しくなるため、などと説明されてきました。
ただ、殺人事件などでは、遺族感情が薄まることはないという意見もあり、この制度の存在意義が見直され、殺人罪などについては、2010年に時効が撤廃されました」
今回のケースで、男性は1986年の事件の殺人未遂罪と現住建造物等放火未遂罪に問われているということだが、これらの罪の「公訴時効」は事件当時、15年とされていた。そうだとすれば、法律が改正される前に時効が成立していたのではないか。
「刑事訴訟法255条1項によれば、『犯人が国外にいる場合』には、『その国外にいる期間』は時効の進行が停止します。つまり、外国にいる間は、いくら時間がたっても、時効は完成しません。
今回のケースですと、事件から今までずっと国外にいたようなので、公訴時効は全く進んでいなかったことになります。したがって、日本に到着した時点で時効は完成しておらず、逮捕できたということになります」
神尾弁護士は、このように述べていた。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
神尾 尊礼(かみお・たかひろ)弁護士
東京大学法学部・法科大学院卒。2007年弁護士登録。埼玉弁護士会。刑事事件から家事事件、一般民事事件や企業法務まで幅広く担当し、「何かあったら何でもとりあえず相談できる」事務所を目指している。
事務所名:彩の街法律事務所
事務所URL:http://www.sainomachi-lo.com