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河川敷に作られた「謎の石像」 製作者不明のまま「強制撤去」されてしまう?

2015年03月03日 08:41  弁護士ドットコム

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長野県上田市の千曲川(ちくまがわ)河川敷に出現した謎の石像に、地元が揺れている。2011年ごろから製作が始まったらしい石像は、徐々に手が加えられていき、いまや顔の直径が約1.2m、高さは2mを超える巨大石像にまで成長してしまったのだ。


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片手間には作れないような大作だが、製作者は不明。誰かが当局に無断で作っているというのだ。川を管轄する国交省北陸地方整備局・千曲川河川事務所の占用調整課も困惑を隠さず、こう語る。



「石像が設置されている場所は国有地であるため、無断で石像を造る行為は、河川法に違反した犯罪行為になります。2011年4月に石像を確認して以来、警告文を出して名乗り出るように求めたり、防護柵を設けるなどしてきていますが、いまだ製作者を特定できずにいます」



今後、石像は河川敷から姿を消してしまうのだろうか? 行政問題にくわしい湯川二朗弁護士に話を聞いた。



●石像の「所有権」は製作者にある


「この問題は民法の問題と行政法の問題がからんでいますので、それらを区別して考える必要があります。



石像の所有権は誰のものか。これは民法の問題です。石像の所有権は、石像の製作者にあります。河川法に反しているかどうかは関係ありません」



では、石像をそのまま河川敷に置いておけるのか。



「それはだめです。国有地である河川敷を権限なく占有しているのですから、石像の製作者は石像をそこから除去する義務があります。ただし、国がこの義務の履行を求めるためには、民事訴訟を提起する必要があります」



国有地での身勝手な芸術活動は許されないが、作品の撤去のためにはそれなりの手続が必要というわけだ。



●河川敷で「工作物」を作るには許可が必要


一方で、行政法ではどんな対応が考えられるのか。



「河川法では、3つの条項が関係します。まず、河川区域内で土地を占有するためには河川管理者の許可を要し(24条)、河川区域内に工作物を新築するためには河川管理者の許可を要します(26条) 」



そして、これらの規定に違反すれば、河川法102条によって、1年以下の懲役または50万円以下の罰金に処されることになる。



「これらの規定に反して河川区域内の土地を占有し、または工作物を新築した者に対しては、河川管理者は工作物の除却をして原状に回復するよう命じることができます(75条1項)。



そして、この除却命令については、石像製作者が分からなくても、法は、過失がなくて当該措置を命ずべき者を確知することができないときは、河川管理者は、当該措置を自ら行うことができる(同条3項) と定めています」



●河川法でも石像は壊せない?


河川敷からの「除却」、つまり「撤去」はされてしまうのか。



「本件の場合は、河川管理者(今回のケースでは河川事務所長)は、除却命令を経ることなく、 自ら直接、石像の除却の代執行ができることになります。この場合は、民事訴訟を提起する必要はありません



とはいえ、国ができることは、石像を河川敷から除却することまでで、壊してしまうことはできません。石像の所有権を侵害することは許されないからです。したがって、国は石像を河川敷から除却して、どこか別の場所で保管することになります」



しかし、これだけの大きさの石像で、重さも相当なものだろう。「保管」となれば、新たな問題が起こるはずだ。



「保管費用は、石像製作者の負担となります。しかし、保管費用は除却費用とは別ですから、代執行に要した費用のように国税滞納処分の例によって石像製作者から直接取り立てることはできず、事務管理費用として民事訴訟を提起して取り立てることになります」


名もなきアーティストは、こんな面倒な手続が必要になることを知って、石像を彫っていたのだろうか。


(弁護士ドットコムニュース)



【取材協力弁護士】
湯川 二朗(ゆかわ・じろう)弁護士
京都出身だが、東京の大学を出て、東京で弁護士を開業。その後、福井に移り、さらに京都に戻って地元で弁護士をやっている。なるべくフットワーク軽く、現地に足を運ぶようにしている。
事務所名:湯川法律事務所