バルセロナF1合同テスト3日目の朝9時前、ホンダのナイトシフト(夜間担当)のスタッフ数名がサーキットを後にしていった。前日の最後に起きた電気系トラブルは「つまらない問題で、クルマが帰ってきてすぐに火を入れられたくらい」(新井康久F1総責任者)だという。MP4-30には2日目に101周を走破したパワーユニットがそのまま搭載され、3日目のテストに臨むことになったが、それ以外にもホンダのスタッフにはやらなければならないことがたくさんあったということだろう。
走行開始は午前9時45分と、やや遅れた。この日は先週の事故で療養中のフェルナンド・アロンソに代わってケビン・マグヌッセンがステアリングを握り、MP4-30に乗るのが初めてとは思えないほどスムーズに2~3周ずつのデータ収集ランを繰り返していった。午前11時前には連続10周、7周とやや長めのランをこなしていき、12時過ぎにはソフトタイヤを履いてタイムアタックを行った。
この段階で記録したのが1分25秒225というタイム。この時点では3番手であり、ほぼ同時刻にフェリペ・マッサがスーパーソフトで記録したトップタイムとの差は1.949秒だった。
「スーパーソフトとソフトの差はおそらく1秒弱だろう。今日の午前のコンディションとサーキットの粗さからスーパーソフトは、ややレンジを外れているから、それほど大きな効果を生まないんだ」
ピレリのマリオ・イゾラの言葉を踏まえて考えれば、現時点でのマクラーレンとウイリアムズの実質的な差は1秒程度ということになる。メルセデスに対して約3秒の差があった2日目に較べると大きな前進だ。これは2日目に101周を走行して収集したデータ分析の効果であり、MP4-30の熟成が着実に進んでいることを示している。
先日ジェンソン・バトンが「ここまで進歩してきたマシンに乗ってケビンがどう言うか楽しみだ」と話していたが、初めてMP4-30をドライブしたマグヌッセンは終始上機嫌で次のように評した。
「昨年型はフロントがピーキーで挙動予測が難しいマシンだったけど、このマシンは昨年型とはまったく違い、そこが安定している。(空力のあまり効かない)低速コーナーでも、ステアリングを切ったときのメカニカル面のフィーリングがとても良い。新車としては良い土台ができていると感じたよ」
パワーユニット面でも、その仕上がりに驚いたという。
「ホンダは昨年のメルセデスとも異なる哲学で作られた完全に新しいパワーユニットなのに、この時点で、こんなにスムーズに走れたことに驚いた」
しかし、午後に入って走行を開始、レースシミュレーションのスタートと同様にアウトラップでピットレーンに向かい、リヤタイヤをホイールスピンさせてウォームアップしながら通過して、スタート練習のためにピット出口へ向かおうとしたところで異変が発生した。オイル漏れが起き、そのままガレージに入り、3日目の走行は終了となった。
「少し早すぎる終了となってしまったが、マシンのかなり深い部分でオイル漏れが起き、その調査のために走行を止めてパワーユニットを取り外すことにした。明日さらにマイレージを重ねたいから、慎重を期しておきたかったんだ」と、マクラーレンのエリック・ブーリエ。
ホンダによれば「リーク箇所はわかっているが、その影響が周囲のコンポーネントにどれだけ及んでいるかという分析が夜になっても続けられており、その結果を待って最終日に向けて換装しなければならないコンポーネントを判断する」という。開幕戦に向けた最終確認を行うために、バトンが走行するテスト最終日には完璧な状態でしっかりと走り込みたいからこそ、慎重を期したというわけだ。
「パワーユニットのシステム自体は、すでにレースをできるくらいの状態になっています。ただし実際にレースをするまでに、レースを想定した実走状態での確認やテストが必要なんです。パワーユニット自体はきちんと動いていて、明日はもっと良い走行ができると自信を持っています」
新井総責任者の言葉どおり、テスト最終日には開幕戦に向けて可能な限りの準備を行ってもらいたい。
(米家峰起)