ほのぼの仲良しファミリーを突然襲った父親の悪性腫瘍。完治はするのか? 仕事はどうなるのか?
『夫が骨肉腫になりました』(まきりえこ著、扶桑社/刊)は、骨肉腫にかかったサラリーマンの夫を中心に、病気と向き合う一家を描いたコミックエッセイだ。
実はこの本には“前作”がある。それが『小学生男子(ダンスィ)のトリセツ』シリーズ(1冊目は扶桑社/刊 2冊目はマガジンハウス/刊)で、大人気4コママンガブログ「ちくわの穴から星☆を見た」を書籍化したもの。サッカー大好き小学生男子“おりぇ”(本作では「ユルト」)と母親の戦いの日々を描いたコミックエッセイだ。
本作『夫が骨肉腫になりました』は、ユルトが小学校5年生の正月に急性糸球体腎炎を発症したところからはじまる。
入院することになった息子につきっきりの妻「ちゃば」。その頃から夫「クロとら」の身に“前兆”が起きていた。「足が痛い」、そう訴えるクロとら。膝を強打したからだと済ませていたが、痛みは一向に治まらない。そこで別の病院で検査をしたところ、痛みは腫瘍によるものだと診断される。さらに手術をすると、腫瘍は悪性で、クロとらは「骨肉腫」といわれる病気であることが判明したのだ。
骨肉腫とは100万人に1人が罹るといわれる“骨のがん”。20代以下の若い世代での発症が多く、クロとらのような40代での発症は珍しい。以前は“不治の病”といわれていたが、ここ10数年で治療法は飛躍的に向上し、現在の5年生存率は70%ほどと言われている。しかし、若い人に症例が多いだけあり、強い抗がん剤を使った治療を行うため、クロとらの体力がもつかどうかは分からない。
夫婦は、意を決して抗がん剤治療を受け入れる。
しかし、普段はのんきなクロとらも、治療をはじめてからふさぎ込むようになる。妻のちゃばも気丈に振る舞まおうと努めるが、それまで「人」の字のように支え合っていた夫婦の片方が倒れてしまい、「がんばらなきゃ」という想いに「もう無理」という諦めが覆いかぶさる。さらにその苛立ちをユルトにぶつけてしまうような状況に陥ってしまっていた。
若くしての大病に、仕事やお金など、さまざまな悩みが降りかかる。そこにクロとらの母親の遺産相続争いまでがからんできて、家族は八方塞がり状態。そんな絶望の中でクロとらは大手術に向かう。
突然、ごく普通の生活を送る家族に起こった窮地。それぞれが不安や恐れを抱きながらも、お互いに支え合う。そして全員で逃げることなく病気と闘った。そんな家族の姿が、この中には描かれている。
「生きる」ことと向き合ったとき、はじめて本当に必要なものと不必要なものが見えてくる。そんなときに人は、何を大切にすべきか、誰が自分たちの助けになってくれるのか、普段ぼんやりとして見えなかったものが、はっきりと見えるようになる。
本作は、家族が病気になったとき、どのように向き合うべきかという点でも、非常に示唆に富んだ一冊となっている。会社員が長期入院することになった場合、医療費はどのくらい払わないといけないのか、会社を休んでいる間、どのくらいのお金がもらえるのかといった説明は、もしものためにも知っておいて損はないはずだ。
(新刊JP編集部)