2015年02月26日 16:51 弁護士ドットコム
東京都の後楽園ホールで2月22日に行われた女子プロレス「スターダム」のメインイベント、世IV虎(よしこ)選手と安川惡斗(やすかわあくと)選手の対戦が、凄惨な「ケンカマッチ」となり、物議を醸している。
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報道によると、対戦は世IV虎選手が馬乗り状態で殴り続けるなど、一方的な展開となった。試合はセコンドのタオル投入で終了。試合後、安川選手の顔は血だらけで、頬が大きく腫れ上がっていた。診断の結果、鼻と頬骨を骨折する大けがだった。
この試合について、ネットでは「プロレスの範ちゅうを超えている」「もはや犯罪ではないのか?」という声も上がっている。一般的に、プロレスや格闘技などの競技中の試合で、相手にケガをさせたことで罪に問われる可能性はあるのだろうか。刑事事件にくわしい西口竜司弁護士に聞いた。
「私も昔アメフトをやっており、タックルなんかをしておりました。今回の報道を聞いて『プロレスでもこんなことがあるのか』ということで大変驚いてしまいました。この件については、古傷の右膝をさすりつつ考えていました」
西口弁護士はこう切り出した。プロレスや格闘技などの競技中に、他人にケガをさせた場合、どういう扱いになるのだろうか?
「一般的には、スポーツ競技中の事故については、刑事上の責任を負いません」
どういうことだろうか?
「たとえば、格闘技の試合中に相手を殴ることは、ひとまず、傷害罪や業務上過失致傷罪の構成要件に該当します。
しかし、格闘技の試合で相手を殴ることは、刑法35条の『正当行為』にあたり、違法性がなくなるため、犯罪にはならないと考えられています」
つまり、形式的には犯罪行為にあたる場合でも、スポーツ競技中の「正当行為だった」とみなされれば、犯罪にはならないということだ。
「ただし、裁判所の判断をみると、その事故の加害者競技者の行為態様によっては、傷害罪などが成立する可能性があります。
たとえば、空手の練習と称して一方的に殴る蹴るの暴行を加えて相手方を死亡させた事件では、傷害致死罪の成立を認めています」
ケースバイケースということだが、今回の試合はどうだろうか?
「今回の件は、なかなか難しい問題です。
試合ビデオを見ると、多くの人はやり過ぎだった、度を超えた、と感じる内容だったのではないかと思われます。
ただ、プロレスというのは、もともと激しい身体接触がある競技です。しかも、プロ選手同士の戦いということであれば、なおさらです。
したがって、刑法の立場でみれば、仮に傷害罪の問題になったとしても、『正当行為』だったとして、違法性がなくなるケースではないでしょうか」
つまり、「犯罪にはならない」ということだが・・・。
「もちろん、私はこのような行為を肯定しているわけではありません。プロ選手はルールの範囲内で戦うべきであり、世IV虎選手の行為が許されるわけではありません。スポーツは楽しくしたいものです」
西口弁護士はこのように指摘し、注意を呼びかけていた。
今回の行為が許されるわけではないと考えたのは、主催団体も同じだったようだ。世IV虎選手の王座が剥奪され、無期限の出場停止処分となったことが2月25日、発表された。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
西口 竜司(にしぐち・りゅうじ)弁護士
法科大学院1期生。「こんな弁護士がいてもいい」というスローガンのもと、気さくで身近な弁護士をめざし多方面で活躍中。予備校での講師活動や執筆を通じての未来の法律家の育成や一般の方にわかりやすい法律セミナー等を行っている。
事務所名:神戸マリン綜合法律事務所
事務所URL:http://www.kobemarin.com/