いま政府は「女性が輝く日本」というスローガンを掲げ、女性管理職の目標数を定める法案まで作ったと報じられています。私がワタミで働いていた2000年代後半にも、女性の管理職が1人もおらず、会社が何とか増やそうとしていました。
女性を管理職に就ける目的は、「わが社は女性社員も働きやすいですよ」と外部にアピールして女性の人材を確保することと、女性にも出世の道がある社内にアピールして女性社員のモチベーションを高めてもらおうというものでした。(文:ナイン)
自信をもって「作り直し」命じられない女性店長が退職
女性管理職の登用は会社の課題なので、うまく達成した部長の社内の評価も上がります。こうして各部長は、多くの副店長クラスの女性社員を管理職である店長に昇進させましたが、ムリな登用はさまざまなトラブルを生みました。
たとえば店長になった女性は、ホールでお客様を見つつ、お客様に提供する料理や飲み物にも気を配らなくてはなりません。料理をマニュアル通りにできていなかったり見栄えが悪かったりする場合、厨房スタッフに「作り直し」を命じるのも店長の仕事です。
しかし当時のワタミには、「男は厨房で調理。女はホールで接客」という暗黙の了解があり、女性社員は厨房の調理業務に入らない慣例がありました。したがって厨房をほぼ未経験のまま、店長職に就いた女性もいるわけです。
厨房での経験が浅いと、自信をもって「作り直し」の指摘ができません。そもそも商品の作り方のマニュアルすら理解していない女性店長もおり、アルバイトの中には、
「調理経験もないくせに偉そうに言うな!」
と口にしたり、態度に出る人もいました。こういった軋轢が起こることで「私には店長の力がないんだ」という悩みを抱え、自ら店長職を降りてしまったり、退職してしまった女性店長もいました。
こういう状況を見ると「やっぱりオンナは根性がない」とか「適性のある女性管理職がいない」と考える人もいるかもしれません。しかし、本当に悪いのは本人よりも、ムリな昇格をさせた上司や会社なのではないでしょうか?
上司の思惑で部下が振り回される悲劇も
当時のワタミを考えると、管理職候補の女性には、きちんと厨房業務の経験を積ませる指導が必要だったと思います。
ただ、いくら厨房を経験させたいと思っても、ホールスタッフの人員が少なければ、シフトの関係でなかなかうまく行かないのが現実でした。厨房経験のない店長候補には、厨房研修を別途行わせてもよかったかもしれません。
また、ワタミでは「社員は店長だけ」という店もあり、厨房のことを知らないと店長が務まらない状況がありました。店長のほかに「料理長」という社員のポストがあれば、女性店長だけに過剰な負荷が掛からずに済んだかもしれません。
最大の問題は、ワタミには「自分の店の問題は自分の責任」というような社風があることでした。上司からの助け舟もなく、何か問題があっても、
「自分の店は自分で何とかしろ。だってお前は店長だろ?」
という雰囲気があったのです。
こうして「女性管理職を増やしたい」試みはうまくいきませんでしたが、他の会社でも同じようなことが起こっているのではないでしょうか。女性の部下登用を上司の評価に結びつけると、上司の思惑で部下が振り回される悲劇も起こります。
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