2015年02月25日 12:41 弁護士ドットコム
確定申告のシーズン。会社に税金分を源泉徴収されているサラリーマンの多くにとっては、あまり縁がなさそうだが、「副業」をしている人は別だ。もし副業が赤字だと税務署に申告すれば、本業の給与所得と「損益通算」をして、所得税や住民税を安くすることもできる。そこで「架空の副業で赤字が出たことにすればいいのではないか」と考える不届き者もいるようだ。
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確定申告の受付が始まった2月16日、名古屋国税局が告発した脱税事件が報道された。節税マニアなら誰しもギョッとしたのではないだろうか。それは、名古屋市の会社経営者の男性(47)が脱税を指南したとして、所得税違反と税理士法違反容疑に問わわれたという事件だ。
その男性は、自分の知人や口コミで集まった約20人の代わりに、副業で赤字が出たように装った確定申告書を作成し(税理士法違反)、総額で約600万円の税還付を求めさせた(脱税)という。実際に還付された金額の一部を謝礼として受け取っていたようだ。
この件について、名古屋国税局に取材すると、「個別案件については一切、お答えできない」として、報道内容に関してはコメントしなかった。しかし、他人の確定申告書を作成した行為については、一般論と断ったうえで、次のように回答した。
「税理士法52条には『税理士又は税理士法人でない者は、この法律に別段の定めがある場合を除くほか、税理士業務を行つてはならない』とあります。
また、税理士業務とは税理士法2条に規定があり、『税務代理』『税務書類の作成』『税務相談』の3つがあげられます。税理士資格のない方が、人の申告を手伝うことは『税務書類の作成』に觝触する恐れがあります」
ただ、個々のケースで判断していく必要があるとも指摘した。次のようなケースもあるからだ。
「たとえば『代書』の場合は『作成』にあたりません。税理士が作成した下書きを預かり、誰かが入力するような場合です。ただ入力するだけで、自己判断によらなければ、税理士法に觝触することはありません」
では、今回の事件で問題になった「架空副業による脱税」とは、そもそもどんな手口なのか。山本邦人税理士は次のように説明する。
「副業で赤字が出たように装うということは、所得税法で定められている『直接経費』に該当しない支出を直接経費として申告したということです。『直接経費』とは、所得税法で次のように定められています。
『総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額及びその年における販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用の額とする』(所得税法第三十七条)
つまり、副業の実態があり、そのうえで、その副業にヒモづいた支出であるかが、必要経費として認められるためのポイントになります」
ちなみに「副業を装いやすい」職業というのは、あるのだろうか。
「通販などのネット関連事業やライター、編集者、コンサルタント、デザイナー、WEBクリエイター、各種代行業などがあげられます」
なぜだろうか?
「特別な設備投資や資格・許認可が不要であり、自宅を事務所とできるような事業が考えられるでしょう。交通費や備品費、消耗品費、図書費、研修費、家賃などの生活費を、経費として申告しやすいからです」
しかし、副業をでっち上げて赤字を申告したら、立派な脱税行為にあたる。今回のようなケースでは、どんな処分になるのだろうか。
「不正に還付申告をした人は、所得税法違反に問われる可能性があり、その場合10年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金が課される可能性があります(所得税法230条)。
また、申告を代行した人は、税理士法違反に問われる可能性があり、2年以下の懲役または100万円以下の罰金が課される可能性があります(税理士法59条)。
日本の税理士制度は、公平適切な税金徴収のための重要な根幹の一つと考えられているので、各国税局もいわゆる『ニセ税理士』行為には目を光らせていると思われます」
【取材協力税理士】
山本 邦人(やまもと・くにと)税理士
監査法人にて経営改善支援業務に従事した後、平成17年に独立。現在は中小企業を中心に160件を超えるクライアントの財務顧問として業務を行う。税金面だけではなく、事業の継続的な発展という全体最適の観点からアドバイスを行う。
事務所名:山本公認会計士・税理士事務所
事務所URL:http://accg.jp
(税理士ドットコムトピックス)