2015年02月24日 12:41 弁護士ドットコム
「バレンタインチョコをもらったことがなかった」。2月中旬のバレンタインデー当日に、チョコレートを万引きした疑いで現行犯逮捕された67歳の男性が、このように供述したとして、ネットで注目を集めた。
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報道によると、男性は2月14日、兵庫県伊丹市内のスーパーの特設チョコ売り場から、板チョコ2枚を盗んだ疑いが持たれている。男性は「今まで1個もチョコをもらったことがなく、欲しかった」と警察に対して供述し、容疑を認めているという。
この言葉に対して、ネット上では「今年一番悲しい事件」「許してやってくれ」などといった同情の声が相次いだ。
刑事裁判では、犯行に至った経緯によっては「情状酌量」されて、罪が軽くなるケースもあると聞くが、今回のようなケースについてはどうだろうか。元検察官の矢田倫子弁護士に聞いた。
「一般論ですが、たしかに犯行の動機によっては『情状酌量の余地がある』とみなされるケースもあります。
しかし、犯罪行為に及ぶ動機は人それぞれですし、『本人なりの理由』はあるものです。
さまざまな動機の中で、情状酌量が認められるのは、社会通念に照らして『やむにやまれない』と認められるような、限られた場合だけです」
では、「チョコレートをもらったことがなかった」という動機はどうだろうか?
「『チョコレートをもらったことがない』としても、それがチョコレートを盗んだ『やむにやまれない事情』になるかといえば、そうではありません。
結局のところ、『チョコレートをもらったことがなかった』で、情状酌量をされることはないでしょう」
ネットでは、モテない男性に同情する声が多いが・・・。
「『モテない男性への共感』としてネット上で話題なっていますが、『モテない』部分を面白おかしく話題にできるのは、関係のない第三者だからでしょう。
チョコレートを万引きされた店の経営者には、全く落ち度がありません。そのことによって犯罪の被害者である店側が、財産的被害を甘受すべき事情は、なにもありません」
すると、男性は起訴され、処罰される可能性が高いのだろうか?
「窃盗罪の場合、起訴するかどうかや、どのような量刑を下すかを判断する際に、最も大きな基準となるのは、賠償や盗品の返還が行われているかどうかです。
言い換えると、『被害回復が図られているかどうか』ですね。
これは窃盗罪が『他人の財産を侵害する犯罪』だと考えられているからです」
それでは、今回のようなケースでは、盗んだ2枚の板チョコが返されていれば、起訴されないのだろうか。
「食品の場合、万引きされた商品(食品)は破棄する扱いとする店舗が多いため、チョコレートが返されたとしても、『被害回復された』と直ちに評価できるわけではありません。
万引きされたチョコレートについて破棄する扱いであった場合には、被疑者がチョコレートの代金を賠償することによってはじめて、被害が回復されたと評価されることになります」
このように矢田弁護士は説明する。
「被害回復があれば、起訴される可能性は低くなりますが、絶対に起訴されないわけではありません。
たとえば、被害回復が図られている場合であっても、盗癖があり、同じような事案による前科前歴が多数あるような場合には、起訴される可能性があると思います。
また、正式に起訴されるのではなくて、罰金を前提とした略式裁判手続が選択される余地もあると思います」
矢田弁護士はこのように指摘していた。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
矢田 倫子(やた・のりこ)弁護士
東京地方検察庁・名古屋地方検察庁など歴任後、平成21年退官・弁護士登録。平成24年2月に福田敬弘弁護士・田島攝規公認会計士・税理士と共に「ひかり法律会計事務所」を設立し、現在は広く刑事・民事全般分野で活躍中。
事務所名:ひかり法律会計事務所
事務所URL:http://www.office-hikari.jp/