日本では一般に「転職回数が多いと、再転職に不利」だとされている。終身雇用・年功序列で発展してきたために、「飽きっぽい」「長く会社に貢献することができない」といった負のレッテルを貼られてしまう。
しかし、逆張りの発想であえて「転職回数の多い人を採用するようにしています」という経営者もいるようだ。人事コンサル会社社長の安達裕哉氏が、その真意についてブログで書いている。
「チャレンジして失敗する人の方が仲間にふさわしい」
安達氏がその経営者から聞いた話によると、転職回数の多い人は「常に『自分の価値』を意識して働いている人が多い」のだという。価値とは「スキル」とも言える。「自分のスキルに自信がある」ために、転職を繰り返すことができるというのだ。
「転職は大きなチャレンジです。チャレンジしない人よりも、チャレンジして失敗する人のほうが、われわれの仲間としてふさわしい。そう思っているだけですよ」
スキルがあってチャレンジングな人材。なのに転職回数が多いだけで、門前払いされる現状もある。そういう人材を積極的に採用して「うちの会社には、いい人がたくさん入ってくれます」と語っている。伝統的な日本企業とは逆の発想だ。
さらにこの経営者は、同じ会社で長く頑張っている人ほど「実は微妙」だとも言っている。
「その会社の慣習に凝り固まっているし、スキルなんてとっくに陳腐化してます。人脈もないし、どうしようもないです」
日本で良しとされていた人材の価値観に、変化が訪れているのだろうか。ツイッターなどではこれに「この観点は面白いなぁ」「1社に10年20年は危険すぎる」と共感する声も多い。
ただし「回数云々より、活躍実績次第」と、結局は実績やスキルを重視しているのではとする人もいる。
さらに、回数だけではストーカー騒動などの「問題社員」を見抜けないと指摘する人もいれば、「高スキル人材を除いて、転職回数が多い人の大半はハズレのような」と否定する声もある。
現役ヘッドハンターは「ほんの少し寛容になった程度」とバッサリ
果たして、実際の採用現場はどう捉えるのだろうか。ITや製薬業界に詳しい現役ヘッドハンターにこの経営者の声を読んでもらった。「採用の姿勢は企業によるところが大きいですが…」と前置きしつつ、やはり「あえて転職回数が多い人を採用する」という企業はまだ少ないと話す。
「外資系も気にしますが、やはり国内内資の方が転職回数にうるさいです。昔と比べたら『ほんの少し』は寛容になったと思いますが、まだまだですね。『辞められると人事の責任になる』というのも、そうした状況が変わらない理由として大きいのではないでしょうか」
「社員の定着率」が人事部の評価指標としてあるならば、すぐに辞めるリスクのある「転職回数の多い人」が敬遠されても仕方がない。書類で落とされる場合は、人事部が転職回数を気にしていることも往々にしてあるそうだ。
さらに、どのくらいの期間で転職したかも重要とのこと。顕著に良くないのは「1社目を長く勤めて、2、3社目が1~2年」というように、「転職に失敗したのでは」「スキルが追い付いてないのでは」と思われる場合だ。反面、「1社目より2、3社目に長く勤めている」「同じような周期で辞めている」という場合はOKだそうだ。
「特にプロジェクトベースで人を埋めたいというニーズが強い企業では、『転職回数にかかわらずスペックを重視する』という企業もあります。ただ、マネジメント職ではなく電話営業のようなルーチンワーカーを求める企業も多いので、注意が必要です」
そう聞くと、まだまだ転職回数を重ねるには抵抗が出てきそうだ。しかし「会社を移りたい」「仕事を変えたい」という欲求は自ずと出てくるもの。そうした人が、転職を成功させるためのポイントを聞いてみると、こう答えてくれた。
「面接では『自分やチームの成果物』『どのような役割を果たしたか』『将来何をしたいか』の3つは必ず聞かれます。1社に長くいても、この3つを言葉にできないようならNGです。逆にいえば大事なのはこの3つを意識して仕事をし、業界内で『優秀な人物』として名前が知られるよう努力することではないでしょうか」
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