2015年02月22日 10:41 弁護士ドットコム
「新人研修中で、名刺を集めています。よかったら名刺をいただけませんか」。東京駅の構内で、こんなふうに声をかけられて、気軽に応じたら、あとで不動産の営業電話がかかってきた――。そんな投稿がツイッター上で話題になった。
【関連記事:ビジネスホテルの「1人部屋」を「ラブホ」代わりに——カップルが使うのは違法?】
投稿によると、声をかけてきたのは、スーツ姿の若い男性だ。投稿者は「応援するつもり」で名刺をわたしたところ、後日、その男性とみられる人から、不動産の勧誘電話がかかってきた。断っても「そんなこと言わずに」と粘られたため、無理やり電話を切ることになったそうだ。
「研修中」と称した名刺交換のあとに営業電話がかかってくるケースはかなりあるようで、ネット上には「迷惑だ」という意見が書き込まれていた。このように「だまし討ち」ともいえる方法で名刺をもらい、営業電話に利用する行為は、法的に問題ないのだろうか。一藤剛志弁護士に聞いた。
「事業者が、個人情報保護法で定められた『個人情報取扱事業者』にあたるかどうかによって、結論が少し変わってきます」
一藤弁護士はこう切り出した。個人情報取扱事業者とは、事業用に保有する個人情報が過去半年のうち1日でも「5000件」を超える事業者のことだ。
「個人情報取扱事業者は、偽りその他不正の手段によって、個人情報を取得することを禁止されています(個人情報保護法17条)。
この規定に違反した場合、事業者を管轄する大臣、つまり、不動産の場合は国土交通大臣が、その行為を中止させる勧告や命令をすることができます。事業者が従わない場合には、刑事罰もあります」
では、個人情報取扱事業者でなかった場合は、どうだろうか。
「人を欺いて名刺を渡させる行為は、そもそも詐欺にあたります。
民事上、相手に名刺を渡させた行為者には不法行為責任、指示をした業者にはその使用者責任が発生します。また、刑事上でも行為者には詐欺罪、業者または上司には、その教唆が成立する可能性があります。
ただし、名刺そのものは財産的価値が必ずしも高くないため、実際にこれらの責任を追及することは難しいかもしれません」
では、どうすればいいのか。
「この場合、あとから営業電話がかかってきても、引っ掛からないように注意するほかありません。もちろん、営業電話が強引だったり、詐欺的だったりした場合は、そのこと自体によって、契約の取消しや業者に対する制裁もありえます。
なお、宅地建物取引業者の場合は、個人情報取扱事業者であるか否かを問わず、業務に関して法令違反があり、宅地建物取引業者として不適当として判断されるときは、業務停止や免許取消しとなる可能性があります」
一藤弁護士はこのように説明していた。「新人研修で」と言って、人の良心につけ込んで名刺を集め、営業電話をかける行為には、リスクがあるといえそうだ。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
一藤 剛志(いちふじ・つよし)弁護士
第二東京弁護士会多摩支部 副支部長、公益社団法人立川法人会 監事
事務所名:弁護士法人TNLAW支所立川ニアレスト法律事務所
事務所URL:http://www.tn-law.jp